短編

□幼なじみ
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 振り向いて早苗は小さく唸った。またあいつだ、と聞こえよがしに舌打ちするが、本人は一向に気にした風もない。笑顔のまま早苗の元に駆け寄ってくる。その姿はまるで、主人の元に尻尾を振りながらボールをくわえて駆け戻ってくる犬のようだ。そのうちお尻から尻尾でも生えてくるんじゃないかと、早苗は幼なじみである勇樹を、眉間に皺寄せ見つめながら思った。
「早苗っ! 一緒に学校行こう!」
「嫌」
なんでーと言いながらも人懐こい犬のように早苗にまとわりつく。早苗にとってはうざいことこの上ないが、いくら嫌だと言っても素直にきく相手ではないのでもう抵抗する気も失せてしまっている。
「早苗、今日も可愛いな!」
無視。
「早苗、大好きだ!」
無視。
「俺と付き合って!」
無視。
しかしそれでも勇樹がへこたれることはない。毎日毎日早苗に猛アタックをかましてくる。
 これで何度目なのかもう分からない告白を右から左に聞き流しながら、早苗は盛大にため息をついた。毎朝毎朝、登校するのが憂鬱である。
それでも。
「なんだかんだ言って、早苗俺と一緒に登校してくれるんだよな〜」
「……」
それでも、こいつと一緒にいる時間が嫌いじゃない自分がいる。
早苗はふっと笑いながら勇樹と一緒に校門をくぐった。

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