短編

□季節はずれの
1ページ/4ページ

頭にこつんとなにかが落ちてきた感覚があったので、ぼくは思わずその部分に手をやった。今ぼくは周囲に木々のない住宅街を歩いていたから、空を飛ぶ鳥に置き土産でもされたのかと思ったのだ。でも、どうやらそれは違ったようだった。頭上を見上げても雲ひとつない青空には鳥の姿などひとつもなかったし、なにより、下を見やれば足元にころりと、今まさにぼくの頭を直撃したらしい物体が、転がっていたのだ。それは、小さなプレゼントの箱だった。
 不思議に思って、ぼくはかがんで拾ってみた。それは、ぼくの手の平の上に丁度乗っかるくらいの大きさで、羽根のように、とまではいかないまでもとにかく軽かった。白地に小さな赤色の星がちりばめられた包装紙で包まれており、更にその上から赤いリボンで飾りつけられている。まるで漫画に出てきそうな典型的なプレゼントの箱だな、とぼくは思った。その時だった。
「メリークリスマス! 」
 いきなり頭上から声が聞こえてきたので、ぼくは驚いてそちらを見やった。すると、ああ、なんてことだろう。これは夢かなにかだろうか。ともかく現実とは思えない。それでもあえて今ぼくが見ているものの説明を試みると、そう、それはそりだった。空飛ぶそり。昔よく大人が語って聞かせてくれた、サンタクロースが乗るための乗り物。ご丁寧にそりの先には一頭の立派なトナカイまでいて、余程中身が詰まっているのだろう、下からでも、そりの上に大きな白い袋まで見えた。ただ、肝心のサンタクロースは見えなかった。
 目を擦ってみた。頭上のそりは消えない。頬をつねってみた。トナカイすら現存しているようだった。最後に、両頬を思い切りはたいてみた。小気味よい音が鳴った。でも、それだけだった。中身がぎっしりつまっている白くて大きな袋が、ぼんやりと空に浮かぶ薄い雲のように、姿を薄れさせることはなかった。……どういうことだ。
「ふー、やれやれ。反応が薄いなあ」と先程の声がまた聞こえてきた。かと思うと、そりの端からひょっこりと顔が覗いた。
「折角このサンタ様が君にプレゼントをあげたって言うのに、『ありがとうサンタさん』の一言もないわけ? 」
そう不満そうに言うと、自称サンタクロースの顔がひゅっと引っ込んだ。とほぼ同時にチリンとベルらしき澄んだ音が鳴り、そりが滑らかに地面に下りてきた。そりの足が地に着くまでにそう時間はかからなかった。その間ぼくはと言えば、プレゼントを手に握り締めたまま微動だにすることができないでいた。
 そりが地面に着地すると、赤い服を着た自称サンタクロースはトナカイの手綱をそっと置いて、そりのふちに手をかけ、身軽な動作でひょいとそりから飛び降りた。赤いスカートがふわりと舞った。
 赤いケープに赤いスカート。同じく赤の帽子に、首には、まるで首輪のように、小さなベルが黒いリボンで結び付けてある。こげ茶色のロングブーツを履いて地に下り立った彼女は、勝気そうな顔でぼくの顔を真剣な顔でじろじろと見つめていた。と、不意に手を口元にやっていきなり吹き出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ