短編

□ツバサの日記
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 ○月一日

 自称探検家の端くれである父さんがまた家を出ていった。今度は何ヶ月くらい帰ってこないつもりかな。
 母さんがこんな放浪癖のある父さんにすっかり呆れかえって家を出てったのはつい一週間前のことだったように思う。だから今ぼくは家に一人きり。おばあちゃん家に電話すれば、母さんは飛んで帰ってきてくれるだろうけど、たまには母さんにも休養が必要だと思うから電話はしない。この機会に休ませてあげた方が、夫婦仲ももう少し長く続くと思う。ぼくとしては、二人に離婚されるのはちょっと複雑な気もするし、できるだけ長く続いてくれたらと思うから。
 とにかく、今日からいつまで続くか分からないけれど、一人暮らしを頑張ろう。


 ○月十日

 それにしても、母さんは本当に辛抱強い人だと思う。
 あんな変人探検家の父さんとよく夫婦になれたもんだ。そしてよく、ぼくが小学六年になるまで育ててくれたもんだ。
 今日は授業参観のプリントを配られた。でも今家に両親はいないから、先生にそう言ったら、全くなんて両親だって先生がぼそっと呟くのが聞こえた。それは確かに父さんには是非ともいって欲しい台詞だけれど、母さんまで含めないで欲しいと思う。だって、ぼくの母さんは本当に辛抱強くて寛大で、素敵な人だから。あんな夫をもって、夫の分まで忙しく働いて、子どもを一人育てるなんて、並大抵の努力じゃできない。母さんのことを馬鹿にしたりひどい親だと罵ったりするのは、いくらぼくの大好きな担任の先生でも許せない。
 母さんはあんな夫をもって、本当に苦労してきた。何ヶ月も家を留守にしていたかと思えば、いきなり帰ってくる。変な「おみやげ」と一緒に。家にいるときはいるときで、働きもせずぐうたらしているだけだから、あの父親は何にも役にたちはしない。ぼくが生まれる前は、一応小さな出版会社に勤めていたこともあるらしいけど、すぐ辞めてしまったようだ。昔から世界を見ていたひとだとは思っていたけれどまさかここまでとは思わなかった、とは母さんがよく、父さんが九時に眠ってしまった後に吐いていた台詞。よく耐えてこられたもんだ。多分、できれば今すぐにでも離婚したいのだろうけど、ぼくがいるから母さんは離婚できないでいる。やっぱり、子どものためにも両親は共に揃っているべきだと母さんは固く信じているから。あんなだらしのない、滅茶苦茶な父親でも、やっぱりぼくにとってはただ一人の父親だから。母さんは、ぼくのために我慢してくれている。ま、ついに里帰りしちゃったけどね。
 
父さん、今度はどんな「おみやげ」と一緒に帰ってくるつもりなんだろう。楽しみというより、ちょっと怖い。
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