Novel*
□unclear
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「今日はどちらへ行かれるんですか?」
「黙って私について来い」
「まぁ、男らしい」
「茶化すな」
一見普通の会話に聞こえるだろうが実際は男女が逆転していた。
見た目は可愛らしい人形のようだとご近所にも評判のティエリアちゃん。
しかし実際はプライドが高く、誰にも心を許さない冷めた少女だった。
例外は父親のヴェーダだけ。
最近では執事のロックオンにも心を許しかけている様だが本人はその事に全く気付いていない。
「こうしているとデートみたいですね」
「なっ!?」
横に並んで歩くティエリアの顔を上から覗き込むように見遣れば思ってもみなかったのか、瞬時に頬を紅く染め動揺していた。
「手でも繋いでみますか?」
更に調子に乗ったロックオンが「お手をどうぞ」と空いていた右手を差し出す。
漸く我を取り戻したティエリアがその手を叩くように振り払った。
「冗談は顔だけにしろ!」
「いい男だと思いますが?」
「…自分で言うな」
どこまでも楽観的な男に呆れの溜め息を吐いて持たせていた花束を受け取った。
「ここだ」
「お墓…ですか?」
「そうだ」
小高い丘の上に墓標が一つ、佇んでいた。
ティエリアはその前まで行くと膝を折り、花束を差し出して地面に置いた。
「今日は命日だからな…」
誰の、とは言わずとも理解したロックオン。
「どんな方だったんですか?」
「分からない。私が小さい頃に病気で亡くなったから…。ただ…」
「ただ?」
言葉を区切るティエリアに先を促そうと続けた。
「繋いだ手の感触だけは覚えている」
右手をジッと見つめるティエリアの表情は柔らかかった。
ロックオンはまた一つ、少女の内側を覗いた様な気がした。
「お嬢様、やはり手を繋ぎましょう」
「お前と恋人ごっこをする気はない」
「違います、今日だけ私が貴女の母上の手になります」
突拍子もない事を言い出す執事にティエリアは目を丸くし訝しんだ。
「大体一般的に言う母親の手と成人男性の手が一緒なわけないだろう」
「貴女を想う気持ちは母上にも負けないと思います」
よくもまぁそんな科白を恥ずかしげもなく言えたもんだとティエリアは呆れた。
結局根負けしたのは少女の方だった。
「………、全く…こんな事今日限りだ」
「はい、お嬢様」
そっぽを向いて文句を言うティエリアに嬉しそうに手を忍ばせる。
少しだけ少女の手が強張っていたのを執事は見逃さなかった。
掌からじんわりと伝わる温もりが心地いいと口には出さずともお互い感じていた。
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ロクオンがティエさんを両親のお墓に連れていくのはよくあるので逆バージョンをお送りしてみました。
捧げ物がこんなのですみませんm(__)m
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