School*

□first contact
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他人が自分に出来ない何かをいとも簡単にやってのけた時、人はその対象の人物に対して憧れや羨望の眼差しを向けるかの『好意』か、それと対照的に嫌厭して無関係になるかの『悪意』のどちらかに別れるだろう…。





『 first contact 』





あぁ、困った。
ここで立ち往生してからどれくらい経っただろうか。
5時間目の授業の始まりを告げるチャイムはとっくに鳴り終わっていて、辺りを見回しても人ひとり見当たらない。
静寂に呑まれそうな中、何度も助けを求める様に仔猫の鳴き声だけが木霊していた。

「にゃー……」
「う、首が痛くなってきた…」

ずっと上を見上げていたせいで肩凝りを起こしてしまった脆い身体が恨めしい。
仕切り直しに一度下を向き、首を左右に振ってから再び頭上に手を伸ばした。

「おいで!私がちゃんと受け止めてやるから、降りておいで!」
「……にゃー」

小さく鳴くだけでぷるぷると震える小さな体は私の言葉には応えてくれなかった。
今すぐ抱き締めてやりたいのに…。
木の上で蹲り降りられなくなった猫との攻防は一向に終わりが見えない。
私にとって目の前の壁はあまりにも高過ぎる。
木登りなんてそんな野性的な事、やった事がなければ出来るとも思えなかった。
助けてあげたいのにどうしようも出来ないこの現状。
誰か助けを呼びに行こうにも、その間に何かあったらいけないし…。
右往左往してる間にも猫は衰弱しかけているようだった。

「お嬢さんは危ないから退いてなさいよー…っ、と」
「……ぇ?」

後ろから男の人の声がしたかと思えばいつの間にか目の前の大木を軽々と上っていた。
あまりの早業にぽかんとしていたのだろう、上から見下ろす男の人と目が合い笑われてしまった私はかなりの勢いで恥ずかしい人決定だ。

「もう大丈夫だからな」

木の幹に上手く座り込んだ男の人は腕の中に仔猫を収めて優しく体を撫でてやっていた。
その様子に安心して詰めていた息を一気に吐き出す。

「ちょっと後ろに下がってろよー」
「……?」

どうするのだろうと疑問に思いながらも何となく従って2、3歩下がった。

「ひゃっほーーー!!!!!」
「な……っ!!?」

仔猫を抱えた男の人が声を上げたかと思えば幹を蹴って宙を舞った。
あまりに驚愕して声も出ない。

「よっ…と、着地成功!」

私の目の前に軽やかに降り立った男の人は笑顔で仔猫を抱き上げその鼻の頭にキスをしていた。
やっと我を取り戻した私は拳をギュッと握り締めて大きく息を吸った。

「貴方はどうかしている!!」

私の声に仔猫が驚いてしまったが正直今は気にしていられない。
どうしてこんな無茶が出来るのか…。

「何もしないよりはいいだろ?」
「だからって木の上から飛び降りるなんて、リスクが高過ぎです!!」
「はは、お前さん猫みたいだな」
「っ、茶化さないで下さい!!」
「毛を逆立てるとこなんかそっくりだ」
「私を猫と一緒にするなー!!!」

危険を省みず、私には到底真似出来ない事をあっさりとやってみせた。
ただの馬鹿ではないのか。
そう疑いたくなるのも無理はない。
なのに目が離せないのは無茶ばかりするせいだろうか。
それとも…?

「女の子は護るもんだって思ってるから、な?」

助けた仔猫―さっき気付いたがメスだ、に語りかけていたはずなのに、何故か私に向けられた言葉の様な気がして胸の辺りがざわついた。

「あ、そうだ。明日からよろしくな?」
「……?」

言いながら右手を出してきたが何がよろしくなのか分からずに、けれど反射的に手を差し出していた。
軽く握手をして離れていった手は私の頭上へと移動し、自慢のサラサラヘアーから一転、鳥の巣へと変貌させられた。

「じゃあな」

ボーッとしている私に苦笑して踵を返すといつの間に下に降ろしていたのか仔猫が足元にじゃれついていて歩きにくそうだ。
私はただその背中を眺め、もやもやとしたままの胸の辺りの制服をギュッと握った。

「変な男だ…」

呟きは5時間目終了のチャイムに掻き消されていった…。




********


ロックオン先生が着任する一日前のお話でした。
ティエさんは鈍いのでそれがまだ恋だとは気付いていません。

在り来たりで大変申し訳ないのですが、ちょめ様に捧げます(__)







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