『ごくせん』

□叶わぬ恋と知りながら
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「そんなんでもいいのか?遠くへは行けないぞ?海外とか無理だぞ?」

「別に遠くに行きたくて言ってるんじゃねっつうの!!」

ふてくされた頬を少し赤くして、身を乗り出したヤンクミの顔に自分の顔を近づけて。

「…いつも俺の部屋ばっかだろ。たまには違ったところで、久美子と二人でゆっくりしてぇな〜って思っただけなんだよ」

そう言った隼人に、ヤンクミはすっげぇ綺麗な顔で笑う。

「…そんなんでいいのか?」

「それがいいの!!」

「だったら、行くよ」

「マジで!?ヤッタ!!」

また立ち上がって、おっしゃーってガッツポーズ付で喜んでる隼人を、ヤンクミはまぶしそうに見つめてる。


「ヤンクミって隼人のどこがいいわけ?」

そんな二人を見て、呆れた溜息をつく俺。

今日の喧嘩はこれでお終い。
所詮はバカップルの言い争いでしかないから。

「あ!?なんだよ、竜!!」

「いや。こんなガキのどこがいいのか、全然わかんねぇから」

「喧嘩売ってんのか!?てめぇ!!」

俺を睨みつける隼人をシカトして、ヤンクミへと視線を向ける。

どうなんだ、と問いかけるように。

「知りたいか?」


いたずらっぽく笑うヤンクミに、俺の胸倉を掴んでいた隼人が息を飲む。

何でお前が緊張してんだよ…。

「でも秘密だ。教えてやらない♪」

そう言って舌を出したヤンクミに、隼人はがくりとうなだれた。

「なんだよ、教えろよ」

「ヤーダー。もったいないし」

「教えろって!」

「も〜」

さっきの言い争いが嘘みたいに、甘いやり取りと繰り広げる二人に、俺はまたため息をつく。


そのじゃれあうヤンクミの姿は、隼人の前だけで見せる『女』の顔。

俺はそれを横から眺めるだけ。


諦めてしまえば楽になるのに。


友達だと、昔のセンコーだと。

割り切ってしまえば楽になるのに。


この感情を、消す方法がわからない。

何ができるわけでもねぇのに。

気持ちだけがずっと続いている。


「しょうがないな、じゃ一個だけ。耳貸せ」

クスクスと小さく笑うヤンクミが、隼人に顔を寄せて、小さく内緒話。

とたんに、隼人の顔が真っ赤になった。

何を言ったんだか…。

「お前…。それ、反則」

「えー?だって本当のことだぞ?」


がくりとテーブルに突っ伏した隼人の頭を、ヤンクミは高校時代のように撫でた。


その手がほしいと願っても…。

もうどうにもならない。



叶わない願いだとわかっているのに。


叶わない恋だとわかっているのに。



どれだけ時間がたっても…。


二人の関係が深く強くなっているのを、わかっていても…。


消えうせることのない、この恋情。


俺はきっと。


この先もずっとこの感情を抱えたまま二人のそばにいるんだろう。


叶わない恋だと知りながら。


ずっとずっと、好きでいるんだろう…。


そんな未来を望んでいるのかいないのか。

もう俺自身わからないけれど。



そんなことを思って。


俺はぎゅっと瞼を閉じた…。





叶わぬ恋と知りながら……。




END
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