『ごくせん』

□☆とりぷるらば〜☆@
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「なんだかんだで、一番構ってもらってんの隼人じゃんか」

「そそ。ずりぃよな〜」

山口が教室から出て行ったのをちゃんと確認してから、ツッチーや日向が俺の机を囲む。

いつの間にか。山口は3D全員の『お気にいり』になってる。

まあ当然のことかもしんねぇ。

今までは、誰も俺たちの言葉を聞いてくれなかった。

俺たちを正面から見てくれなかった。

でも、山口は違うから。

俺たちをまっすぐ見て、信頼して、笑ってくれるから。

みんな、口では「うぜぇ」って言いながらもからかいながらも。

山口に構ってもらえるのが嬉しくてしょうがねぇんだ。

だから、今や山口は3Dにとって、なくてはならない存在で。

それはもちろん俺にもそうで。

でも、俺には『お気にいり』なんてレベルじゃねぇから。

マジで惚れちゃってるから。


「あんなんじゃ、全然っ足りねぇ!」

椅子にふんぞり返りながらそう言った俺に、横で竜が溜息をついた。

「あんま面倒かけさせんなよ」

「あぁっ!?うっせーよ、このムッツリスケベがっ!!」

「はあ?…なんでムッツリなんだよ」

「竜くん、とか呼ばれて嬉しかったくせによ〜」

「っな!」

からかうように言った俺に、声をあげそうになった竜は「バカ言うな」ってすぐにそっぽ向いたけど。

耳が少し赤いぜ、竜ちゃんよ。

図星だったってことだろうが。

ふん、て鼻で笑った俺に横から蹴りをくれたけど。

いい加減に認めろよ、お前も山口に惚れてるくせに。


「そんなんじゃライバルにもなんねぇよ、お前」

「…うるせーよ」

俺の台詞の意味を理解してる時点で、もうアウトだと思うンですけど〜?


「竜は素直じゃないよね〜」

俺の右肩にずしりと体重をかけて、タケが小声でそう言う。

「ムッツリだからな」

「ははっ」

笑ったタケに、やっぱり竜の蹴りが入る。


「痛いって、竜ちゃん」

「ムッツリってやめろ」

「でもよ〜、隼人も竜もヤンクミのどこがいいわけ?」

「そそ。いい奴っつうか、変なセンコーなのは認めるけど。女としてはどうなのよ?」

ビシッと向けられたツッチーの扇子を竜はうざそうに除けて、眉間に皺を寄せる。


「…別に」

俺たちの間じゃバレバレなのに、未だ本人が認めてない感情だから返答に困るってこと。

アホな奴。


「隼人は?」

にっこりと人懐っこい顔で笑ったタケを真正面に受けて。

俺はにやりと笑う。


「もったいねぇから教えてやんねぇ」

「えー!なんだよそれぇ〜」

「ハイハイ、お前らうるさい。俺様は寝るから戻れって」

ギャーギャーわめく3人にしっしっと手を振り払い、俺は机に突っ伏して寝の体勢に入る。

横では竜も同じように寝の態勢。椅子にふんぞり返って眼を閉じてる。

山口がうるせーから授業はなるべくサボらない。

でも真面目に受けるほど、いい子ちゃんでもねぇから。

山口の数学以外の授業中は大抵、睡眠。

欠伸をかみ殺し、俺は少しずつ夢の世界へと入って行った。



どこが好き、なんて言い切れない。

確かにさ、「あんな女」だよ。

俺だって最初はそう思ったさ。


眼鏡にジャージの色気のねぇダッセー女。

でも今は違う。


まっすぐ見てくれる眼が好きだ。

笑うと幼くなる表情が好きだ。

風になびく黒い髪も。

凛と立つ背中も。

時々おかしなことを口走る天然なとこも。

頭を撫でてくれる優しい手も。

センコーとして叱ってくれる声も。

甘いものとかメシとか食ってる時の幸せそうな顔も。

どこにそんな力があるのかってくらい細い体も。

ケンカしてる時のカッコイイお前も。

その時に髪をかきあげる仕草も。

俺の気持ちに全く気付かねぇ鈍感なとこはちょっと困るけど。


「山口久美子」を形成する全てに惚れてる。


心から、とかそんな甘いもんじゃねぇ。

魂の底から。


あいつが、欲しい。


ただ、それだけ。







翌日の出欠で、あいつは本当だったら一番最後の俺から名前を呼んでくれた。

しかも、その後ずっと俺の机に腰下ろしながら。

一番最初のはずの秋山の名前を最後に呼ぶまで。

ずっと俺のそばにいてくれた。

そういう、可愛いことしてくれちゃうお前が。


マジ、大好きだっつうの!!





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