『ごくせん』

□叶わぬ恋と知りながら
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「だーかーらー!旅行!!」

次第に声が大きくなっていく隼人を横目で見て、俺はそっとため息をついた。

俺、なんでこんな奴とつるんでんだろ…。

たまに本気でうざってぇんだけど…。

今日だってそう。
いきなり呼び出されたと思ったら。

溜まり場と化してる熊井さんのラーメン屋で。

俺の横ではいつもの二人がいつものように言い争いをしてるだけ。

俺がいる必要はどこにある?って感じだろ…。

「お前、一人暮らししててどこにそんな金あるんだよ」

「そんなん、なんとでもなるって!ちゃんと働いてるんだからさ〜」

そう、いつもの隼人とヤンクミ。

今回の言い争いは、夏休みをどう過ごすかという話。

いっつもいっつも、くだらない他愛のない話で口喧嘩を繰り広げる二人。

そして、それに巻き込まれるのはいつも俺…。


高校卒業して。

俺は二流だけど私大に合格して。

隼人は工務店に就職決めて。

ヤンクミは別の男子校に勤務が決まって。

それから、しばらくしてから。


二人は付き合いだした。

そのことを聞かされた時は、マジで驚いた…。

隼人がヤンクミに惚れてたのは3Dでは周知の事実だったけど。

隼人がずっと口説き続けてたのも、知っていたけど。


ヤンクミが受け入れるわけねぇって、思ってたから…。

喧嘩ばっかだから、どうせすぐに別れるんじゃないかって思ったけど。

なんだかんだで、もう2年近く経つ。

一番そばで、その二人を見てみたのは間違いなく俺で。

きっと一番、二人の別れを望んでいるのも、恐れているのも俺で。


受け入れられるはずないと、その感情を心にしまった俺と。

それを、馬鹿正直にヤンクミにぶつけ続けた隼人と。

その違いは大きい。

「なんだよ!?俺と旅行したくないってのかよっ!?」

「そんなわけないだろっ!」

「だったら、なんだっつうんだっ!あぁ!!」

ガタンといすをならし立ち上がって。

完全にキレてしまった隼人に、ヤンクミは困ったように首を捻って、俺へと助けを求めるように視線を投げる。

…それもいつものこと。

「ヤンクミ、今3年担任なんだろ。夏休みに長期でどっか行くなんて心配なんじゃねぇの?」

俺がぽそりとこぼした台詞に、隼人はぐっと押し黙りヤンクミを見た。

「…いろいろ不安定な時期だからな」

やっぱり困ったような表情のまま、ヤンクミはそう続ける。

「なんで竜はそうやってわかるんだよ…」

逆になんでお前は、そんなこともわからないんだよ。

いつも一緒にいるくせに…。

ヤンクミが自分の口から言わないのは、言ったら隼人が「俺より生徒かよ!?」ってキレるからだろ。

だから、モト生徒の俺が教えてやる。

「…二・三日間とかでも、ダメなのかよ」

ふてくされて唇尖らせ、いすに腰を戻しながら。

そう言う隼人に、今度はヤンクミが身を乗り出した。





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