『ごくせん』

□☆とりぷるらば〜☆@
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第1話 side 隼人


高校3年の1月。
半端な時期にやってきたセンコーは。

変なヤツだった。

遠慮なく俺らの中に入ってきて。かき回して。

笑顔で居座るあいつ―山口久美子。

こんな半端な俺らを。

まっすぐに見てくれて。

言葉をしっかり聞いてくれて。

一緒になって笑って、喜んで。


あいつが特殊なんだってわかってる。

他のセンコーは相変わらず嫌いでムカつくし。

大人はやっぱり汚ねぇ。

それでも、まっすぐすぎるくらいまっすぐなあいつがいれば。

自分の足で立って行けるような気がしたんだ。

そんな風に思った時にはもう。

気が付いたら惚れてた。

堕ちたのが、いつだったかなんて覚えてねぇ。

親友が。
竜が、同じ気持ちだろうが関係ねぇ。

絶対、手に入れる!!


なのに、お前は全く気が付かねぇし。

俺、結構アピッてるつもりなんですけど!?

鈍いにもほどがあるだろ!?


なあ!?







「おっはよー!!」

相変わらず色気ねぇジャージ姿で、いつも通り汚ねぇ教室に現れる。


「ちーす」

「おっはよー」

「うぃーす」

「よぉ!」


みんなが思い思いの挨拶を返す。

えっらい違いだよな、本当。

出欠を取るあいつにもみんながちゃんと返事をする。

「挨拶は人と人の基本的な付き合いだ」って教えてくれたから。

みんなが返事をするようになって結構経つのに、それでもあいつは一人一人の顔を見ながら嬉しそうに頷く。


「小田切竜くーん」

「くん付けすんな」

「ハイハイ。竜くん」

「……」

睨みつける竜にも全然こたえねぇ山口はにっこり笑って、竜の頭をワシャワシャって撫でる。

「触んなって!」

「注文が多い奴だな〜」

そう言って笑って、次の奴の名前を呼ぶ。

ちらりと横を見れば、竜の涼しい顔。

嬉しそうに見えんのは気のせいじゃねぇはずだ。

他の奴にはわからねぇんだろうけど。

俺にはわかる。

今、竜の機嫌がいいことも、内心は喜んでいることも。

…ムカつく。


「武田啓太〜」

「ハーイ!」

起立して右手を上げて返事をするタケに、山口は笑ってそばまで寄ると竜の時と同じように頭をワシャワシャってする。

「元気があってよろしい!!」

…小学生かっつうの!!

山口の乱暴な撫で方のせいで、ピンで留められてた髪型がくずれてもタケは嬉しそうに笑ってる。

…やっぱりムカつく!!

俺は感情のまま、タケが座っている椅子を蹴ってやる。


「イタッ!なんだよ、隼人〜」

やっぱり小学生みたいに、イーダと舌を出してくるタケをぎろりと睨んで。

俺は机に突っ伏して、机をガタガタと揺らす。

ああ、イライラする!!

早く俺を見ろよ!!


「土屋 光〜」

「おいーす!」

「日向浩介ぇー」

「いるにゃー」

それぞれ返事をする奴の頭を撫でて回るから、山口の出欠確認は時間がかかるんだよ。


「ラストー。矢吹隼人」

「……」

「矢吹隼人〜?どうした〜?」

俺のまん前で立って、頭を撫でてるんだから出欠はわかってるのに。

俺が返事するまで山口は名前を呼び続ける。

俺の頭をワシャワシャと撫でながら…。

「や〜ぶ〜き〜?」

「おっせーんだよ!呼ぶの!寝ちまうだろ!?」

勢いよく立ち上がってそう叫ぶと俺の目線の方が高くて。
慌てて視線を下げる。

…こいつ小せぇよな。

「おっせーって…。しょうがないだろ。お前は『矢吹隼人』で『や』なんだから。最後になるのはしょうがねぇじゃん」

呆れたように言いながらも眼鏡奥の目は優しく笑ってる。

そんな視線が欲しいわけじゃねぇんだけど。

怒られたいわけでもねぇから…。俺は不貞腐れるしかねぇ。


「なーんて顔してんだ!いい男が台無しだぞ!」

そう言って山口は俺の頬をぶにーって抓る。

「いてぇーよ!!」

「はい、全員いるな!お前ら今日も一日頑張れよ〜♪」

本当は全然痛くもねぇくらいだったんだけど。

そう言うしかできねぇ俺だし。

教室から出て行く直前にもう一度俺を見て笑ってくれたから。

まぁいっかって。

俺は席に着いた。






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