V

□春を見せてくれるヒト/桜を見つけた彼女
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「ほら、終わらせないと行かねえぞ」


そう言われて視線を窓の外からプリントへと戻す。

慌てた様子がおかしかったのか、先生は笑って楽しそうだ。

笑う先生を何とかやり込めたいと思ったけど、いい案はすぐには思いつかなくて、だからプリントの問題を解きはじめた。

きっと私の心の内は先生にはお見通しなんだろう。

くつりと笑った声が耳に届いたから。


「…できた」


一度見直しをして先生に採点をお願いすると、赤ペンがさらさらと動く。


「じっと見つめてたって変わんねーぞ。はい、二問間違い」


もう一度解きなおしてみろと示され、再度数式に戦いを挑む。

それもようやく終わり、先生に次までにやってくる課題を出されたあとで図書館をあとにした。



「朽木、こっち」


先生に連れられて歩いたその先には桜。

圧倒的なともよべるくらいのピンクが押し寄せてくる。


「せんせ、い…。すごい桜だ」

「ちょうど満開だな」


こんな場所知らなかった。

風に吹かれて花びらがはらはらと舞い落ちる。

ずーっと歩道の両脇に桜が植えられて、頭上を覆っているからまるでトンネルのよう。

そう、桜のトンネル。


「桜のトンネルだな。すげーな。けっこう花見してる人もいる」


先生の視線の先を追うと、小さな子連れの家族や友人たちらしい花見客が楽しそうにしている。

春だ。


「ありがとう、先生」

「ん?」

「こんなにすごい桜を見るのは初めてだ」


眉間を緩ませて笑う先生の髪に花びらが落ちる。

先生は気づいていないみたいだ。

背伸びをして目一杯手を伸ばしてやっととることができた。

手の中には桜の花びら。

やさしい色をしたそれが、とてもうれしい。


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