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□初めて贈るヒト/特別な意味を持つ彼女
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初めて贈るヒト
放課後の教室のざわめきは落ち着くまでに時間がかかる。
部活へ向かうものが部室棟へと移動してしまうまではざわざわとして、帰宅部の面々が帰途へつくまでは話し声と笑い声。
静かになった教室で本を開く。
大好きな作家の新刊。
はやく読み終わらせてしまいたい。
先生と約束をしたから。
図書館に新刊が並ぶには少し時間がかかる。
それまで待つつもりでいたらしい先生に貸し出す約束をしたから。
先生と同じものが好きということがひどくうれしい。
胸の奥が熱くなる。
そっと、左胸を押さえてみる。
先生のことを考えるとどくんと跳ねるこの身体。
いつ頃からなんてわからないけれど、いつの間にか心臓がはやくなることが多くなった。
緊張しているわけでもないのに。
「ごめん、ルキア。お待たせ」
声にはっとして顔をあげると、そこには待ち人がいた。
「そんなに待っていないぞ、桃」
日直の仕事を終えた桃はうっすらと額に汗をかいている。
何かあったのだろうか?
「乱菊先生に捕まっちゃって資料整理手伝ってたの」
「呼んでくれればよかったのに」
「ダーメ。そうでなくてもルキアいっつも浮竹先生の手伝いしてるでしょ。それに、シロちゃんに手伝ってもらったから平気。じゃ、行こ」
シロちゃんとは桃の恋人のこと。
同じクラスではないが、ちょっとした有名人でもある。
剣道部員で、昨年の夏インターハイで個人優勝をしているから。
「うむ、だが良かったのか?剣道部、今日は休みなのだろう」
二人で一緒に帰るのだと思っていたから聞いてみる。
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