V

□やさしい手のヒト/触れてきた彼女
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やさしい手のヒト




「どうかしたか、朽木?」


どうしよう、気づかれてしまった。

こっそりと見つからぬように柱の影から見ていたのに…。

今日は約束の日ではない。

でも、先生は図書館にいた。

だから、気になることを検証するためにそっと隠れながらいたのに。

先生に来い来いと手招きされたので、このまま去りたい気持ちを抑えて隣へ。


「さっきから遠巻きに何してんだ?」

「いつから…」

「おまえがここに来たときから」


な…なんということだ。

この一時間ずっと先生に気づかれていたのに、私はこっそりしているつもりだったということではないか。

なんて恥ずかしい…。


「ほら、答えろ」


まるで不審者だ。


「…観察」

「なんのだよ」

「先生の…」

「意味がわかりません、朽木サン」


だって、しかたがないではないか。

言えるわけがないではないか。

先生の手があたたかくて、熱い理由を。

安心することを。

不快だなんて一度も思ったことがないことを。

その理由が知りたいのだなんて。


「く、くらべているのだ…」

「誰と」

「クラスの男子だ」


ぴしっと一瞬固まったような気がした空気は直後、いつもと変わってしまった。
先生が何だか怒っている。


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