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□車内距離
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少しずつ後退る。

ぎゅうと押されて混んでいる車内の端へと追いやられる。

休日の電車は時間帯によっていつもより混むらしい。

自宅から大学までの通学でもこんな混みようには出遭ったことがない。


どんっと横から押されてバランスがとれなくなる。

踵からもう後ろに下がれないと伝わってくるのに身体は傾く一方だ。


「ルキアっ」


目の前に迫った人に安心する。

どうにかこの混雑の中でも離れることはなかったよう。

手が伸ばされて後頭部を包まれる。


「っ…」


一瞬苦悶を浮かべて、でもすぐに安堵の表情。


「だいじょぶか?ルキア」


そろそろと横目で後ろを見やれば、一護の手の後ろには金属がみえた。

私の頭を庇ったのだ。

本来は身体を支えるために使うものなのに…。


「一護」

「ん?どっかぶつけた?」

「違っ…」


またぎゅうっと押されて一護との距離が縮まる。

支えられるように身体がくっつく。


「悪い。あと二駅だから我慢して」


一護の胸に顔を埋めるような体勢で、いつもよりも近い距離で声が聞こえてドキドキが止まらない。


「あ、う、うむ」



一護の匂いがする。

呼吸する度に感じる。

男の人の匂い。

このまま背中に手を回したい。

でもそんなことしたら一護は嫌がるだろうか?

こんな衆人環視の中で抱きしめるという行為ははしたないだろうか?



ほんの少し服の端をつかむ。

これならきっと一護にはばれることはない。



だから…。




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