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□泣くなよ
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溶かされていた意識が浮上する。
何かが鳴っている。
触れていた手が離れて、面倒くさそうにそれにでた。
背を向け、立ち上がった彼をぼんやりと見上げていると恥ずかしさが急にこみ上げてきた。
今の、自分の姿に。
「はあ!?待て待て待て」
声を荒げた一護が眉間のシワを最大に増やしている。
電話の相手は最近入ってきたという派遣社員らしい。
詳しくはわからないけれど、パニックに陥ったままその彼女が一護に助けを求めている。
一護は何とか要領を得ようと試みているが、まったくの無駄のようだ。
乱暴に携帯を二つに折りたたみ、大きな溜め息をついた。
「ちょっと、行ってくる。なんかデータ飛んだって」
「うむ。気をつけてな」
頭を抱えたいくらいのようで、不機嫌そうにオレンジの髪をぐしゃぐしゃとかきまぜながら、着替えをはじめた。
「あー、せっかく触り倒せると思ったのに」
残念そうにいうものだから、手近にあったシャツを羽織って一護に近づく。
「はやく帰ってこい」
かがませて、首に吸いつく。
予約のしるしをつけるように。
「おまっ、ますます行きたくなくなったっつーの」
手を伸ばしてきたからぺちりと叩いて離れる。
「ほら、さっさと行って終わらせてくるのだ」
渋々と出掛けた一護を見送って、静かな部屋にひとりきりになる。
一護の部屋はいつもながらきれいに片付いている。
何もすることはないから、暇を持て余すカタチになって普段観もしないテレビをつけてみた。
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