V
□月と橙と。
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二人で座っている木製のベンチは絡みあった蔦が意匠されているもの。
父と母がよく座って景色を眺めていたな。
それを私は家の中から見ていて、とても幸福な気持ちになった。
今にして思えば二人は相当な美男美女であったから。
絵画のようでもあって、大好きな二人が微笑っているのがただ単にうれしかったのかもしれない。
「るーきーあー」
一向に菓子を渡さないことをいぶかしんだらしい彼が、はやくと急かして名を呼んでくる。
「ほら、今日はこれだ」
「おー、すげ。これすごい高いんじゃねえの」
「そうなのか?もらいものなのだが」
彼が有名だといった焼き菓子を一口かじってみるが、高いかどうかはわからなかった。
おいしいとは思うが、それだけだ。
それに、この前彼がくれた一口サイズのチョコレートの方がおいしく感じられた。
包み紙も可愛かったし。
ぺろりとカゴに盛った焼き菓子すべてを食した彼は猫のようにごろんと膝上にのってきた。
眼を瞑っているから眠たくなってきたのだろうか。
「寝るのなら、家に帰って…」
「寝てねーよ。膝枕たんのうちゅー」
そんなに膝枕はいいものなのか?
ここ最近の彼は必ず膝枕を所望する。
よくわからぬな。
してもらったらきっとわかるだろうか。
機会があれば告げみたい。
「一護」
「ん〜?」
「良い月夜だな」
「そーだな」
(終)