V
□月と橙と。
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今日も良い月夜だ。
もうすぐ満月。
膝上にあるやわらかな毛を梳くと、嫌がるように名を呼ばれた。
「ルキア、俺は猫じゃねえ」
「似たようなものだろう。大人しく撫でられていろ」
でなければ膝から退けと目で告げると大人しくなった。
きっとここで笑ってしまえば彼は拗ねてしまう。
こらえるために顔をあげ、真上にある月を眺め初めて彼を見つけた日を憶いだす。
こんな風にもうすぐ満月を迎える月夜だった。
高台にあるこの家は他に遮るものがないため、星や空を眺めるには適している。
そのために屋根裏には天体望遠鏡や星図、星の本が揃えられている。
両親が遺してくれたもの。
眠れなくて、星でもみようと足を外へ向けたときに見つけた。
月灯りの中に映える橙を。
光を浴びてきらきらときれいだった。
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