V

□とある書店員の観察記録
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「それより、これがいい。決まり、今年はこれでお願いします」

「ふぉんだ、ん しょ、こら?」


んん?

ものすごくあやしい発音。

フォンダンショコラ知らないの!?

すっごくおいしいのに。


「フォンダンショコラ。中のチョコがとろ〜ってでてくんの」

「貴様はちょこが好きだからな〜」

「おまえだって好きだろうが」

「しかたがない、つくってやろう。一ヵ月後を覚えておけ、三倍返ししてもらうからな」


挑戦的に見上げた彼女に彼はにやりと笑った。

人の悪い笑み。


「三倍返し以上してやる。おまえが好きなもので」

「白玉か?チャッピーか!?」

「不正解。ほら、それ買って帰ろう」


自然に差し出された左手には銀環があって、彼女のほっそりとした左手にも同じものがある。

ああ、新婚なんだ。

きっと。

そうじゃなきゃ、あんな雰囲気つくり出せない。

甘いのに色めいた。

オレンジの彼には彼女しか映っていない。

その眼差しに込められている想いを彼女は知っているだろうか?

赤の他人でしかない私にもわかるその熱。

それを彼女が知らないはずはないだろう。


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