V

□とある書店員の観察記録
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「何を見ているんだ?」

「ああ、チョコ。もーすぐバレンタインだから」

「ん?貴様がつくるのか?」


いやに古風な話し方。

大きくもないのに声が通る。

どこからだろうと思えばあの特設コーナーからで。

レジから離れた私は興味がそそられたものだから仕事のフリをしながら二人に近づいた。

ちゃんと仕事しながら!

埃払うのも、売り場をきれいに保つのも仕事のうち。

黒髪の純和風な女性。

オレンジの彼との身長差はかなりある。

彼の手元をのぞき込む姿は、女の私からみても可愛らしいと思う。

ちょっと背伸びしているのがなんともいえない。


「いや、おまえにつくってもらおうと思って。毎年手作りでつくってくれてるから」

「りくえすとというやつか」

「そっ。これとかどう?」

「いや、私はこっちのがいい」


恋人同士なのかな?

こちらが恥ずかしくなるぐらいの距離感の二人。

彼女にあわせてややかがんで、顔を近づけて、今にも頬が触れそうで。

さっきまでの眉間のシワはほとんどみられなくて。

そこには甘い甘い空気が流れている。


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