V

□月見と白玉と。
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「っくち」


すんと鼻をすすった音もして、彼女に視線を向けると身体を震わせていた。


「ルキア」


ルキア用の紅茶の入った魔法瓶からカップに注いで手渡す。


「ありがとう、一護」

両手を温めるようにカップを支える手。

それでもわずかに身震いしている。

こくこくと喉を鳴らして飲み終えた彼女の手からカップを奪ってテーブルに置く。

きょとんとしたままのルキアを引き寄せて、足の間に座らせ、後ろからぎゅうと抱きついた。

これで少しはあったかくなるはず。

ベンチの端に置いてある膝掛けをとって、彼女の膝にかける。


「これで少しは違うだろ」

「おぉ〜、あったかいぞ」


楽しげな声を上げた彼女にうれしくなる。

栞を挟んだままの本を自分の膝からテーブルへと移した彼女は空を見上げた。


「続き、読まねえの?」

「あとでにする。一護で暖をとりながらお月見する」


一緒に空を見上げて、体温をわけあう。

同じ時間を共有することがただうれしくて。

彼女の頬に頬を寄せた。


「白玉食べよう!」

「え?団子じゃねーの?」

「私は毎年白玉にしている。このもちもち〜とした食感が最高なのだぞ」


団子だと思っていた白くて丸い食べ物は実は白玉で、しかも手作りらしい。

手ずから食べさせてもらって、やわらかい白玉を咀嚼する。

期待の眼差しはきっと出来はどうだと問いたいのだろう。

無言で口を開けば笑って白玉を食べさせてくれる。

自分の口にも放り込んで白玉を味わう彼女がいとおしくてならない。

ああ、どうしたらもっと近づけるだろう。


(終)
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