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□離してくれないヒト/笑顔の彼女
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むうと膨らませた頬を笑って先生は楽しげに言った。
「しょーがねえだろ。離したくねえんだから」
どういう意味か問いたかったけれど機を逸してしまう。
頼んだものが届いてしまったから。
「ごゆっくりどうぞ」と告げてから一礼して去った和装の給仕者は私の前に白玉ぜんざいと抹茶、先生の前に和風パフェとほうじ茶を置いた。
もう、問いかけることはできない。
先生は黒蜜にかかったパフェに夢中だ。
柄の長いスプーンで一匙バニラアイスを掬って頬張った先生は至極しあわせそう。
口の端をゆるめて「うまい」と一言。
以前先生が言っていた言葉を思い出した。
「男ひとりで甘いモン食うのははずかしいんだ」と。
甘いものが好きだと知ってから何度か二人で出かけたことがある。
その時にそう言って照れくさそうにしていた。
照れた先生はすごく可愛らしかったと思い出していると、大変なことに気づいてしまった。
先生と二人で出かけたことは何度もあって。
それは今更ながらに“デート”になるのではないかということ。
どうしよう、先生の方を向けない。
顔が熱くてたまらない。
気づかなければ良かった…。
いや、気づくならひとりきりの時がよかった。
逃げ出したいくらい恥ずかしくて、でもつないだ手からは逃げられない。
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