V

□見つけた彼女/探してくれたヒト
2ページ/5ページ


時計を見ると探しはじめてからもう一時間以上経っている。

早く見つけないとと、心は急くのに行き先の見当が今もつかない。

落ち着け、一度落ち着いて考えろ。

大きく深呼吸を繰り返して、一度図書館へ戻ろうと決める。

荷物を放ったままだと気づいた彼女が図書館へ行っているかもしれない。

戻るまでの間も彼女がいないか辺りを見回す。

夏場で良かった。

日が沈むにはまだあるから彼女を探せる。

暗い中を一人きりにせずにすむ。

戻った図書館は閉館準備に入っていた。

館員に聞いてみると彼女を見かけてはいないと言われた。

念のため、彼女の荷物を預かっている旨を伝えておく。

図書館内にいなくても敷地内にはいるかもしれない。

ベンチがいくつか設置されているし、樹も植えられているし、茂みもある。

隠れるには十分なスペースが準備されている。

彼女の名を呼びながら建物に沿って裏手に回る。

ゴミ置き場と職員用の出入口があるだけか。

姿の見えない、いるかもわからない彼女の名を呼ぶと、後ろでがさりと茂みが鳴った。

振り返ると、途方に暮れた表情をした彼女が髪に葉っぱを絡ませておずおずと姿をあらわした。

安堵の溜め息が思わず零れる。


「ずっと、そこにいたのか?」


こくんの彼女がうなずく。


「ごめん、なさい」

「ん。これ、荷物」


荷物を受け取った彼女はぎゅうと荷物を抱えてか細い声を発した。


「あの、先生…。すまぬ、私……嫌であったろう。それなのに…」

「びっくり、しただけ」

「嘘、だ」

「嘘じゃねーよ。すぐ追っかけられなくてゴメンな。一人にしてごめん」


ふるふると横に首が振られる。

言葉を探す彼女を見ていられなくて、そっと手を引いて抱きしめた。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ