V

□泣いている彼女/慰めてくれたヒト
2ページ/5ページ


零れそうになる滴を懸命にこらえている姿を見ていられなくて。

隠せばいいと思って…。

どうしていいのかわからなかった。

普通ならどうしたんだって涙の理由を聞けばいい。

それで慰めればいいだけなのに。

幼い妹たちにしてきたように。

なのにそれができなかった。

ただ、ただ抱きしめる腕に力をこめるだけしかできない。

なんて役立たずなんだ。

しかもこの状況をよろこんでいる自分がいる。

腕の中におさまってしまう彼女に感動している自分がいる。

情けないつーか、なんつーか。

俺ってどうしようもない奴かもしれない…。


「泣いて、いいんだぞ」


意識を切り替えるためにそう言ってみたけど、なかなかうまくはいかないみたいだ。

間近にある黒髪をいつものように撫でたいとか。

このままでいたいとか。


「だい、じょーぶ…」

「泣いてすっきりした方がいいって知ってるか?身体にとって泣くってことは大切なんだ」


それとも俺がいると泣けないか?なんて、ひどい聞き方をしたものだ。

泣いてほしくないのに、泣いた表情をみたいなんて。

自分がこんなに人でなしだとは思いもしなかった。


「すこし、だけ…このままで」


そういった彼女はわずかに肩を震わせている。

声も上げずにひっそりと泣いていた。

泣いた彼女にたまらなくなって、抱きしめる腕を少しつよめた。

どうかはやく泣きやんで。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ