V
□泣いている彼女/慰めてくれたヒト
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零れそうになる滴を懸命にこらえている姿を見ていられなくて。
隠せばいいと思って…。
どうしていいのかわからなかった。
普通ならどうしたんだって涙の理由を聞けばいい。
それで慰めればいいだけなのに。
幼い妹たちにしてきたように。
なのにそれができなかった。
ただ、ただ抱きしめる腕に力をこめるだけしかできない。
なんて役立たずなんだ。
しかもこの状況をよろこんでいる自分がいる。
腕の中におさまってしまう彼女に感動している自分がいる。
情けないつーか、なんつーか。
俺ってどうしようもない奴かもしれない…。
「泣いて、いいんだぞ」
意識を切り替えるためにそう言ってみたけど、なかなかうまくはいかないみたいだ。
間近にある黒髪をいつものように撫でたいとか。
このままでいたいとか。
「だい、じょーぶ…」
「泣いてすっきりした方がいいって知ってるか?身体にとって泣くってことは大切なんだ」
それとも俺がいると泣けないか?なんて、ひどい聞き方をしたものだ。
泣いてほしくないのに、泣いた表情をみたいなんて。
自分がこんなに人でなしだとは思いもしなかった。
「すこし、だけ…このままで」
そういった彼女はわずかに肩を震わせている。
声も上げずにひっそりと泣いていた。
泣いた彼女にたまらなくなって、抱きしめる腕を少しつよめた。
どうかはやく泣きやんで。
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