V

□月と少女とチョコレート
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俺はどちらかといえば寝つきはいい方だし、一度眠りについたら途中で起きることなんてほとんどない。

寝たら目覚める時はいつも目覚まし時計の音を聞いてからだ。

なのに、どうしてかはっと夜中に目が覚めた。

眠気なんてどこかへ行ってしまってどうすべきか困る。

明日つーか、もう今日だ。

起きてないで、寝なければ辛いのは自分だ。

なのにもかかわらず、どうしようもない。

ベッドの中で数度寝返りを打ってみてもしっくりとこなくて一向にやってこない睡魔に苛立つ。

起きる覚悟をきめでベッドから起き上がる。

冷蔵庫に常備しているミネラルウォーターをグラスに移して一気に飲み干した。

同じく常備している一口サイズのチョコレートを袋から鷲掴んでベッドに戻った。

眠れないんなら、普段できないようなことをしようと思って。

テレビをつける気も本を読む気もなかった俺は窓を開けようと思ったんだ。

カーテンに手をかけたところで外に誰かがいることに気づく。

相手に見つからないようにそっとカーテンとカーテンの隙間から覗き込む。

息を呑んだのは恐ろしかったからじゃない。

月灯りの下の少女に魅入られたからだ。

黒い髪は肩あたりで外側に跳ねている。

白いワンピースが月に照らされて発光しているよう。

顔はわからない。

俺に背を向けて空を見上げているから。

確か今日は満月だ。

足元にちゃんと影ができている。

幽霊ではなさそうだ。

幼い頃は生きているものと死んでいるものの違いがわからなかった。

今ではなんとなく見分けることができる。

彼女は生きている。

じっと見つめて、俺はそう結論づけた。


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