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□話の中のヒト/勘違いをした彼女
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話の中のヒト


HRの最後に浮竹先生に用事を頼まれた。

それは合図。

私と浮竹先生の二人だけの約束。

黒崎先生の話を聞かせてもらえる。

放課後、国語科準備室の戸を叩く。


「開いているよ」

「朽木です、失礼します」


一礼して、顔をあげると待っていましたとばかりに破顔した浮竹先生。


「待っていたよ。プリント綴じてくれるかい?」

「はい」


一学年分あるであろうプリントを浮竹先生と二人でせっせと綴じていく。

はじめてから一時間くらい経った頃、最後の一セットを綴じ終わった。


「お疲れ。さて、今日は何の話がいいかな?」


いつも授業の準備を手伝ったり、資料整理をしたあと、浮竹先生とお茶をしながらの楽しいひと時。


「ああ、そうだ。バレンタインの話でもしようか」


びくんと思わず跳ねた身体。

落ち着かなくなってしまった。


「一護くんが二年の時だったかな。その年は学校中が浮き足立っていた」


浮竹先生は思い出すように少し視線を浮かせて話している。

懐かしそうだ。


「生徒たちがイベントがしたいって言ったのがはじまりだったかな。2月14日は決戦の日だとか言っていたなあ。校内でも甘い匂いが日に日につよくなって。当日はそれはもうすごいことになっていたよ。一護くんは特にすごかったね。彼はどこにいても目立つから」


とても楽しそうに浮竹先生が笑う。

私も笑って返せばいいのに、それができなくて湯呑みを両手でぎゅっと握った。


「下駄箱と机の中は朝、一護くんが登校した時点でチョコでいっぱいだったらしい。休み時間ごとに呼び出されてもいたと聞いたな。ああ、放課後は列ができていたらしいよ」


俺も二、三回見かけたよと言って先生は私に大丈夫だと伝えるようにぽんぽんと頭を撫でた。


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