V

□離してくれないヒト/笑顔の彼女
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離してくれないヒト



どうなってしまっているのだろう。


「せ、せんせい」

「ん?」


注文を終えて、待っている時間帯。

これは、どうすべきなのだろう。


「手…」

「朽木が逃げないよう捕まえてるだけ」


ぼふっと熱が一気に上がる。

きっと顔もあかいに違いない。


「に、逃げません」


もう逃げるつもりはまったくないのだ。

図書館から、ここ“甘味処 タカムラ”に来るまでずっと手をつないでいた。

手を引かれて、先生と歩いてきた。

会話らしい会話はなかったけど、先生とつなぐ手がうれしくて。

ずっとそのままでいたら、店にはいってからも席についても手はつながれたまま。

離すタイミングは何度かあったけれど離せなかった。

自分から離すことができなかった。

だって、気づいてしまったから。

先生に嫌われたくない理由を、先生と一緒にいることのうれしさの理由を。

すとんと落ちるように心が気づいた。

ずっとそこにあって、気づかずにいた気持ちに。

もしかしたら気づきたくなかった気持ちに。

黒崎一護先生が好きだ、と言う気持ち。

うれしくなるのも苦しくなるのも、名のつかない想いも先生に与えられたものだった。

もっと一緒にいたいと願ったことも、朝会えることに喜びを感じたこともたった一人の存在で。


「信用ならねーからダメ」


ニッと笑う先生はどこか子どものようで。

気づいた気持ちを持て余している私にはどう返事を返したものかがわからない。

こういう時はどう接すればよいのだろう?


「そんなに私は信用なりませんか?」

「ならねえなあ」


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