V

□見つけた彼女/探してくれたヒト
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見つけた彼女



俺が何もできないでいるうちに彼女は走っていってしまう。

荷物はそのまま広げたままで。

追いかけようにも足に力が入らない。

立ち上がることすらできない。

顔の火照りもおさまらないし、頬に受けた唇の感触を忘れることができない。

それでもこのままにしておくことはできないから、二人分の荷物をまとめて図書館を後にした。

走って走って、彼女がどこにいるのかもわからないのに走った。

学校と公園に行って見たけど姿はない。

彼女の家にも行ったけれど帰った様子はなかった。

ケータイで連絡を取りたいのは山々だが彼女のカバンの中にあるから鳴らしてもまったく意味がない。

もうどこを探せばいいのかわらかなくて途方に暮れた。

それでも探す。

見つかるまで探す。

こんな、やり逃げは困る。

どんな意味なのか知りたい。

彼女にとって俺はどういう存在?

俺にとっては、もっと知りたくて、そばにいてほしい人。

もっといろんなことしたくて、笑って欲しくて。

俺と同じ想いを抱いているなら抱きしめたい。

安心させたい。

だって走り去る前に一瞬彼女が見せた表情が脳裏から離れない。

紅潮させた頬は恥らうようで、菫青石色の瞳は潤んでいた。

そう、潤んでいたんだ。

どこかで泣いていないといい。

泣き顔はこの間で十分。

どうしていいかわからなくなるから。

俺まで泣きたくなってくるから。



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