V
□知られているヒト/やわらかい彼女
1ページ/5ページ
知られているヒト
いまだかつてこんなに後悔したことは一度としてない。
どうしてあんなことをしてしまったのだろう…。
きっと先生に嫌われてしまったに違いない。
できるのなら時間を巻戻したい。
先生がいつも言っているではないか。
お礼は満点がいいと。
それなのに私は……。
試験が終わり、テストが戻ってきた。
数学は自己ベストの73点。
その代わりといってはなんだが、英語はギリギリ赤点を免れた点数。
先生に見せられる点数ではない。
だが、見せないわけにもいかない。
いつも見てもらって、今後の試験対策を練ってもらっているから。
それにしても恩を仇で返す点数過ぎて私はどんよりしていた。
数学と英語が同じ日であったのが悪いのだ。
せめて別の日であったらもうちょっとぐらい点数は良かったはず…だ。
日程を組んだ先生を恨んでもしかたがないが、恨まずにはいられない。
テスト用紙をいくら見つめたって点数は変わらない。
それはわかっていても穴が空くほど見つめてしまう。
「クチキさん」
「…はい」
不意に声をかけられ、慌てて顔を上げて返事をするとネリエル先生が微笑を浮かべて立っていた。
今年の春から英語を教えてもらっている。
「昼休みに、職員室まで来てくだサイ」
「はい…」
ううー、きっと課題が出されるに違いない。
ネリエル先生は他にも幾人かに声をかけ教卓へと戻っていった。
.