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□泣いている彼女/慰めてくれたヒト
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泣いている彼女
いつもと同じ時間、いつもの図書館。
まだ彼女は来ていない。
机の上にマナーモードにして置いてあるケータイは何の反応も示していない。
今朝は何も言っていなかったからきっと急に用事を頼まれたとか、乱菊さんあたりに捉まっているかだろう。
もう少し待ってそれでも来ないときは電話してみよう。
読みかけの本に視線を戻す。
けれど文章が頭に入ってこない。
目が文字を追わない。
もう彼女の存在を確認できないと本も読めないのか?
俺って末期か…。
気になるものはしかたがない。
彼女と一緒にいられる時間は一日の中で最も楽しみな時間なのだから。
財布とケータイだけ手にして外へ出る。
電話して迎えにいこう。
「…っと、すみません」
どんっとぶつかった相手に謝る。
注意力散漫で人にぶつかるって、どれだけなんだ。
ふらついた相手を支えてもう一度謝ろうとするとか細い声が聞こえた。
「こちら、こそ…ごめんなさい」
うつむいたままで顔は見えなくてもわかる。
「くちき?」
「せんせ…」
顔を上げた彼女の瞳は潤んでいて、今にも零れ落ちそう。
なんでとか、どうしてとか思う前に身体は動いた。
小さな身体を隠すように腕の中へ。
胸に押しつけるように抱きしめた。
誰にも見せたくなかったんだ。
彼女の泣き顔を。
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