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□食べてくれるヒト/つくってくれた彼女
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食べてくれるヒト


どうしよう…。

いくらなんでもつくりすぎではないか…。

二人分なのに、なぜ重箱三段になってしまったのだろう?

やはり一度家に戻って入れ物をかえてこよう。

待ち合わせの図書館にまだ先生は来ていない。

少し遅くなるとメールをすれば、多少の時間は稼げるはずだ。

もっと早くに気づけばよかった。

あれもこれもと思ってしまったから。

先生が何が好きかがわからなくて、思いついたものを片端からつくってしまった。

あ、冷蔵庫がほとんど空になってしまっているのだった。

帰りに買い物をせねば。

カバンからケータイを取り出し、メール作成画面へと指を滑らせる。

えーと、件名は“ごめんなさい”に、いや“遅れます”の方がよいかな。

よし、これで。

“先生へ
 少し遅れます。 朽木”

送信ボタンを押して、二つにパタンとたたむ。

できるだけ早く戻ってきたいから走っていこう。

下げていた視線を上げると、先生がいた。

こちらを視認済みで、少し大きな声で「おはよう」と届いた。

「おはようございます」と返す前にピロリンと音がして、それは私が今送ったメールが先生に届いた音だった。

怪訝そうな顔をした彼は、残りの距離をつめて私に問う。


「もう、ここにいるのに遅れんの?」

「あ…えっ……と」


口ごもれば「何かあったか?」とやさしい声音。


「お…お弁当を、つくりすぎてしまって…だから、家に戻ろうかと…」

「つくりすぎた?」


こくりとうなずいて重箱を見せると、先生の瞳が最大まで見開かれた。

ううー、先生に呆れられてしまう。



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