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□視線のあうヒト/独占したい彼女
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視線のあうヒト



次の授業である音楽室へ向かう途中で、見つけた。

あれ?

先生が…いる?

朝、会った時はいつもと同じで少しだけ話をしてSHRがはじまる前に別れたはず。

体育館脇の水飲み場で頭から水道水を被っているのは黒崎先生。

あの橙色の髪は間違いない。

どうしよう、声をかけたいけれど自分は今三階。

叫ぶのは恥ずかしい…。

でも…。


「どうしたの、ルキア?」


隣を歩いていた桃がいつの間にか立ち止まっていた私に気づいたらしく後ろを振り返って問いかけてきた。


「え、あ…なんでもないぞ」

「うーそ。今、外見てたよね。……あ」


窓の外を見た桃も鮮やかなオレンジを見つけたらしい。

目でいいの?と問いかけられたけれど、わからないと伝えた。

声をかけたいけど、かけてもいいものかよくわからないから。

だから、もう一度だけ先生だと確認してそれで後でメールしようと思った。

それなのに…。

ばちんっと音がしたかのように視線があった。

先生と私の視線。

先生もびっくりしているみたいだった。

振られた手を振り返していると始業の鐘が鳴りはじめて、桃と二人慌てて音楽室へと駆ける。

都先生が来る前にどうにかすべり込んだけれど、ドキドキと心臓が早い。

あんなに距離があっても視線は絡むものなのだと考えていると隣に座った桃が楽しそうに笑っていた。


「ルキア、顔あかいよ」

「む…そうか」

「そっかあ。やっと自覚したんだ」


自覚とはいったい何の?

わからずにいる私に桃はいっそう楽しげに笑って、でもそれを追求することはかなわなかった。

都先生が来たから。


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