V

□まだまだな距離
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「あ、先輩」


そう口にしたのは無意識に違いない。

彼はそういうことをひどく恥ずかしがるから。

ボクにはバレバレなことも周りの友人たちは鈍いのか気づいていないらしいけど。

夕日に照らされ、窓の外を見つめる姿は恋に憂いていることを物語っている。

彼の視線の先は現・生徒会長である朽木ルキア先輩。

先生からも生徒からも信頼は厚く、人気もある。

才色兼備、文武両道の人。

浮いた話はひとつもない。

今は一人暮らし中で家族はお姉さんとその旦那さん。

両親はすでに他界している。

小柄で少し癖のある前髪が特徴。

ボクの友人・黒崎一護の想い人だ。

一護が“先輩”と呼ぶのは朽木先輩だけ。

他の誰のことも“先輩”とは呼ばない。

一護はいつも大事そうに“先輩”と呼ぶ。

朽木先輩と話をするときも、一人物思いにふけっているときも。

まあ、先輩本人と話す機会なんてなかなか巡ってこないから朽木先輩のことを考えている時の方が圧倒的に多いけど。


「ねえ、知ってる?」

「あ?」


なかなか巡ってこないチャンスを手に入れることができるかもしれない機会。

それを彼に教えよう。


「明日からのクラスマッチで最優秀選手を学年ごとに一人ずつ選ぶのは知ってるよね」

「おー」


ちらりと僕に向けられた視線はまた外に向けられている。

朽木会長以下生徒会役員と体育委員が準備しているグラウンドに。


「で、MVPに選ばれるとなんでもひとつ願いが叶えてもらえるんだってさ」

「は?」


思い切りいぶかしんだ表情。

眉間のシワが二割増し。


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