キミのとなりで

□キミのとなりで10
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よっぽどブーブークッションが恥ずかしかったんだろうなあ。

「ん」

私は唇を閉じて返事をした。

「どうした?」

神田さんが一歩、私に近付き顔を近づける。

「眉が下がってる。困り事か?」

「あ…」

神田さんの顔はきれいすぎて胸がドキドキして頬が熱くなる。

それを気付かれないように両手を頬に当てて私は俯いた。

「神田さん…疲れてるのに…付き合わせて悪いなと思って…」

すると彼の大きな手が私の頭を優しく撫でる。

「別にかまわねえよ。ついてきたのは俺が勝手にしたことだ」

彼に頭を撫でられると自然と心が落ち着いてくる。

「どうしてここまで親切にしてくれるの?」

俯いたまま私は神田さんにそう尋ねてみた。

「親切?」

彼の私の頭を撫でる動きが止まった。

「親切でやってるんじゃねェ。相手がお前だから…。俺がお前のそばにいたいだけだ。お前以外の奴にこんなことはしない」

そして神田さんは“車を出してくる”と言ってこの場を離れたデイシャさんが戻ってくるまで私の頭をゆっくりと何度も撫でた。

その間、私は婚約者の人に悪い気がして心臓がぎゅうって絞られてるような感覚を味わっていた。

その婚約者にも他に好きな人がいるって神田さん言ってたけど、神田さんちって高蔵寺の方のあの山一帯が神田さんちのものだって有名なぐらいの資産家だよね?

今の時代に結婚相手を親が決めるって珍しいけど神田さんちだったら有り得ないことではないんだろうな…。



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フロワ不動産と書いたバンに乗り込み、いざ出発。

後部座席に神田さんと私が乗り、運転席はもちろんデイシャさんだ。

「あれ?アルマくんは?」

私が神田さんに尋ねると神田さんは「さあな」と無表情で言った。

またどこかに行ったのかな…。

そう考えると私は窓の外に視線を移した。

ティキ…
今頃どうしてるのかな?

何度、携帯を開いてみても彼からの連絡はない。

ティキといると凄く楽しかった。

過ぎて行く街並みを見ながら、今までの思い出が次から次に浮かんでくる。

それまで男の人と交際したのなんてなかったから、いろんなことが初めてで毎日ワクワクした。

大好きだよ。とか。愛してるよ。とか言ってくれたのは嘘だったのかな?

私は本気で愛してたのに…。

ヤバい。涙が出そう。

「名無しさん?」

その時、神田さんに名前を呼ばれドキッとした。

「な…なに?」

急いで私は笑顔を繕う。

そんな私を神田さんは怪訝そうに見つめてから言った。

「携帯…そんなに気になるのか?」

「あ…いえっ別に…」

つい強く握りしめていた携帯を私はバックにしまった。

神田さんの悲しそうな表情が胸にグサリと刺さる。

そんな時、運転中のデイシャさんが話しかけてきた。

「そういや神田に女の友達がいるなんて知らなかったじゃん」

そして神田さんはかなり間を置いてから「ああ」と返事をした。

その沈黙の間、神田さんが変なことを言うんじゃないかって私はハラハラした。

“友達”と肯定してくれたことにホッとしたが、その後直ぐに寂しさが募る。

私って、欲張りな女だ。
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