キミのとなりで

□キミのとなりで9
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「え?」

私はアルマくんに言われるまで気付かなかった。

神田さんの知り合いだから怖くないと思っていても体は正直で、知らず知らずのうちに私はアルマくんに対して失礼な態度を取っていた。

だから、そっと何事もなかったかのように、ちゃんとした位置にずれる。

「アルマ。名無しさんを苛めるなよ?」

バックミラー越しに神田さんがそう言った。

「ユウじゃあるまいし、そんなことしないよ」

私は話の輪から逃げるように窓の外の風景をじっと見つめることにした。

だけど耳だけは神田さん達の会話をちゃんと聞いていて…

「俺だっていじめねぇよ。なんで好きな女をいじめなくちゃなんねェんだ」

そう言った神田さんのセリフに体が熱くなった。

想われるのは全然悪くないし、胸がドキドキして嬉しい感じがする。

私だって高校時代は顔はわからなかったとはいえ、メール相手の“ラビ”=神田さんに恋をしていたから正直に言うと今、私は神田さんの事を異性としてちゃんと見てる。

だけど男に振られて直ぐに“はい!次!”とは行けなくて…。

いつかティキのことを忘れられたら、それから…なんて思ってる私はズルい女かな?

「へえ〜。僕には酷い扱いするくせに」

そしてアルマくんが小声で私に話しかけてきた。

「あれ?名無しさんの顔が赤くなってる…。もしかしてゆうべユウと…」

「え?」

私は熱くなった自分の頬に両手を添え、アルマくんを見て言った。

「ないよ!もう子供が変なこと言わないの!」

ほんとに何もないのに、いかにも大人の関係になりましたっていう反応をしてしまった自分が恥ずかしい。

「ソイツ、見た目はガキだが生きてりゃ80過ぎのじいさんだぞ」

神田さんが前を向いたままそう言った。

「ええ!?」

キョトンとしているアルマくんは驚いている私と目が合うと、また可愛い笑顔を見せてくれた。

80過ぎ!?
おじいちゃん!?
戦前の人!?

「驚いたの?」

“うんうん”と私は大きく何度も頷いた。

「見た目こんなだけどユウよりイロイロ知ってるよ?」

イロイロって何!?イロイロって…

「あ!また赤くなった!」

うっ…うかつにもまた変な事を想像してしまった。

「名無しさんってムッツリなんだね」

笑顔でそう言われるが、はっきり反抗できず、俯きか細い声で「違います」としか言えなかった。



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名無しさんが後ろの座席に座った時、なぜ俺は“隣に来いよ”と言えなかったのだろうか。

とても大切で…大切すぎて、嫌われるのが怖くて…どう扱っていいのかわからない。

こんな気持ちは初めてだ。

そして俺は、今までに交際してきた女に気味悪がられ、別れを告げられるたびに傷ついてきた。

名無しさんが俺のことを気味が悪いと思わないと名無しさんのことを信じたいのに不安になる。




やがて知り合いがやっている不動産屋に到着した俺たちは車を降りた。

「フロワ不動産?」

ショッキングピンクの派手な看板を名無しさんが指差し確認してゆっくりと読み上げる。

「ん。知り合いがやってるとこだ」

外観はどう見ても、女の安物の小物を扱ってるようなドハデな外観で、正直“知り合い”だと言いたくなかった。
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