キミのとなりで
□キミのとなりで7
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「一般的に幽霊と呼ばれるものにはあまり使わねえが、悪魔には札は効かねえからな」
エクソシストとは聞いているけど、悪魔なんて本当にいるんだ…。
「悪魔って…どこから来るの?やっぱり地獄?」
「…次元の隙間」
神田さんは黒いグローブ(手袋)をはめながら言った。
「部屋のもの…好きに使っていいから…冷蔵庫の中身も勝手に食っていいから。この中は結界をしてるから安心だが、何かあれば下にいるコムイに言え」
「は…はい」
今の神田さんは朝の時のようにニコリともしない。
“仕事”に意識を集中させているようだ。
切れ長の目が鋭く、薄い唇はへの字に結ばれている。
スッと綺麗に伸びた背筋の後ろ姿がかっこよくてときめいてしまった!
「あ、あのっ」
リビングを出て行こうとする神田さんに私は声を掛け、一緒に下まで降りて行く。
「帰りは何時頃になりますか?」
「早く終われば夜中だが…」
神田さんは少し考えて間を置いて続きを言った。
「遅くても朝までには帰る」
「はい。わかりました」
神田さんは靴を履いてからチラッと私を見て、スッと右手を伸ばし私の頭を無表情でポンポン撫でた。
それから鍵を開けて玄関のドアを開け、外に出る神田さんに私は急いで「行ってらっしゃい」と言った。
すると神田さんは少し驚いた様子で目を丸くして振り返った。
あれ?いけないこと言ったかな?
「…行ってくる」
神田さんは頬を染め、唇を尖らせてそう言った。
あ…なんだ。照れたのか。
私は笑顔で小さく手を振った。
照れた神田さんは可愛いかった。
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“行ってらっしゃい”…か。
くすぐったい気持ちを抱えたまま、一階に住むコムイの部屋のブザーを鳴らした。
「ああ…神田くんか、今から行くのかい?」
ブザーを押してから10秒ほどしてドアが開きボサボサ頭のコムイが顔を出した。
「ああ…。何もねェと思うが俺の留守中、名無しさんに何かあれば宜しく頼む。…なんだ?そのイヤそうな面は」
「ええ〜だってメンドクサイ…」
「俺と名無しさんを引っ付けたいんだろう」
「!?。どうしてそれを!?」
「お前が考えてることなんざお見通しなんだよ。それと、しばらく泊まりになる仕事は受けんな」
「ええ!?それは難しいよ?」
こめかみから汗を垂らすコムイに俺は断固として言い放った。
「行けと言われても行かねーからな。家にもそう言っとけ」
そしてその辺に浮遊しているはずのアルマを乱暴に呼んだ。
「おい!いるんだろ?仕事だ。着いてこい」
するとどこからか空を泳ぐように幽霊のアルマがやってきて、「人使い荒いよな」と言った。
「死んでんだ。人じゃねェだろ」
「うわっ!?冷たいなあ。その言い方」
「いいから行くぞ」
アルマは幽霊だが俺の相棒のようなものだ。
そのアルマと車に乗り込み、俺は依頼者の元へ向かった。
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神田が出かけたあと名無しさんは夕食の後片付けをしていた。
お釜の余った白飯でおにぎりを作りながら喜びを噛み締める。