キミのとなりで
□キミのとなりで7
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「それだけは覚悟しといてくれ。覚悟できなければ早く俺から離れた方がいい」
そう言って名無しさんから離れ寝室を後にした。
離すつもりはさらさらない。そう言えば名無しさんは俺を捨てたりしない。
ゆうべ逢えたのは本当に運命だと思っている。
いつも仕事は車を使って移動するが、昨日はたまたまエンジンの調子がおかしくて、そう遠くもないし歩いて行った。
そう、願いが叶ったんだ…と。
もう独りでいたくねェ。
自分の心をさらけ出して話せる相手が欲しい…。
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はあ…
頭の中がこんがらがって悲鳴を上げた。
だから私はポスンとベッドに横になる。
神田さん、いい香りがした…。とても安心できて心が落ち着いてくる香り。
もう少し抱きしめていて?と言いたくなるぐらいのいい香り…。
わっ…今はそんなことを考えるんじゃなくて…。
もう、どんな顔すればいいかわかんないよ!
一遍に色んなことがあって、何から考えればいいのか…。
神田さんのこと…嫌いじゃない。アヤカシは怖いけど神田さんと仲良しになれたらいいな‥と思うし、むしろ初恋の人だけあって胸がドキドキする。だけど私の中にはまだティキがいる。
あんな酷いこと言われても心のどこかではやり直せるんじゃないかって期待してる自分もいる。
私は携帯電話を手に取り、ティキに短いメールを送った。
“私達、本当に終わりなの?”
たった短い文章なのに涙が溢れてきて、打つのに少し時間がかかった。
ティキといるときは楽しくて、自分は愛されてると疑いもしなかった。
初めて人に愛されて、私を必要としてくれて、私の頭を撫でて何度も“汚くないよ”と言ってくれた。
♪♪♪♪〜
返事が来た!
“残りの荷物、いつ取りにくるんだ?鍵も返せよ”
「うっ…ティキ…ぐずっ」
私は声を殺して泣き、神田さんの枕を濡らした。
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名無しさん…。
その時、神田は寝室のドアに背中を預け、中で名無しさんが泣いているのを感じていた。
本当は中に入って抱きしめてあげたい。そんなヤツのために泣くなと言いたい。だが今は一人になりたいだろう…と考えた。
それに不思議でたまらないのがあの名無しさんが男と付き合えたことだ。
俺とはメールのやり取りだから大丈夫だったが、他人に触れられない名無しさんがどうやって男と付き合うことができたのか?
それに高校時代は父親のせいで実際に男と接するのは怖いと言っていた。
それなのになぜだ?
今の俺にはただ見守る事しか出来ないが、どのようにして名無しさんを落としたのか一度ソイツを見てみてェな。
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その日の夕方、神田さんは仕事に行く準備をしていた。
たくさんの御札をウエストポーチに入れ、右手には日本刀が…って、
「それって銃刀法に引っかからないんですか!?」
熱が下がりすっかり元気になった私が驚くと神田さんは溜め息を吐いてめんどくさそうに言った。
「悪魔を倒すにはこれしか効かないんだ」
「悪魔…」
「そう、悪魔」
神田さんは麻の布で刀を隠すようにぐるぐるに巻き、赤い紐で縛った。