キミのとなりで
□キミのとなりで6
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そう冗談を言い、シャツのボタン付けは終わった。
「小さな部分とはいえ、やっぱり、そこだけ色が違うって言うのがわかるね」
針を片付けながら名無しさんが言った。
だが俺はそんなことは気にしない。
大好きな名無しさんが俺のために付けてくれたボタン。
ヤバい。
嬉しすぎる…。
「ありがとう」
俺は心から礼を言った。
「…大事にする」
心で思った事を素直に口にしてみたのだが、名無しさんは不思議そうに俺を見ていた。
「そ…そんな…ボタンごときで喜んでもらえるなんて…」
「“ごとき”じゃねェよ。嬉しいんだよ。お前が付けてくれたから」
ボッ!と名無しさんの顔が更に赤くなる。
脈は全くないわけではななさそうだ。
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神田さんって…私に気があったり…する?
まさか!ないないない!
学校が一緒だったとしても万が一その時に私の事が好きだったとしても…?
いや!!ない!それはない!
いじめられてた私に好意を寄せた男なんて…。あ!一人いた!名前なんかもう忘れた隣のクラスの男の子が私を好きだって同クラスのリーダー格の女の子を振ってくれちゃったもんだから、いじめられることになったんだ!
でもその男、私を好きって言ったくせに一度も助けなかったな…。
「か…神田さんって!彼女いないんですか!?」
「いたら女なんか家に上げねェよ」
「そっ…そっか」
それはごもっとも…。
「あの…」
「なんだ?」
神田さんは私が付けたボタンをずっと手まぜするように触ってる。
よほど嬉しかったってことが伝わってくる。
「あのね。失礼を承知でお訊ねしますが、神田さんってもしかして私のこと…気になってたりします?」
きゃー!!とうとう恐ろしいことを訊ねてしまった!
これで違ったらすごく恥ずかしい!
恥ずかしすぎて私は神田さんに背を向けたが、返事がちっとも返ってこない。
不安になってチラリと後ろを振り返ると、神田さんがボタンを摘んだまま真っ赤な顔をして固まっていた。
ええ!?まさか図星!?
話しを逸らさなきゃ!
「あああ…あのっ。卒業アルバム持ってます?高校の。ちょっと見てみたいなあ…って」
私のは貰ったその日にゴミ箱に捨てたからなあ。
「神田さんを見てみたいなあ…なんて…」
顔は真っ赤なのになぜか目はつり上がっている神田さん。
もしかして、怒ってるのかな?
「…ない」
「え?」
「ここにはない。多分実家」
「あ、そっか。変なこと訊いてごめんね?あはは…」
私は後ずさりしつつ寝室へ移動しようと思った。
神田さんの実家は山の上の古くからある和風の大豪邸。
私は隣の町に住んでいたけどそんな私でも知ってる有名なお家だ。
何をやってるお宅かと思ったらエクソシスト(陰陽師も兼ねてます)か。
「お言葉に甘えてもう少し、寝かせていただきます。えへへ」
私は不気味な笑いを残しリビングを後にし、寝室へ駆け込んだ。
「び…びっくりした…」
心臓がドクドク速く動いてるし、熱も上がってきたみたい。
私はソーイングセットをキャリーケースの中にしまい携帯をチェックする。