キミのとなりで
□キミのとなりで5
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「それに毎日、ブスブス言われてそのうち洗脳されたみたいに“ああ…私って醜いんだ”って思うようになった。あとトドメが当時メル友だった人と会う約束をしてたんだけどその人、来てたはずなのにすっぽかしてくれちゃって、きっと私を見てがっかりして帰っちゃったんだよ。それで私はみんなの言うとおりなんだって再確認したの」
まばたきをしたら涙が一粒頬を流れた。
その涙を神田さんが指で拭ってくれた。
「お前は不細工でもブスでも醜くくもない!どっちかって言ったら…か…か…かわいい部類だ…」
うわあ。神田さん、湯気が出そうなぐらい真っ赤だ。
「“かわいい”?私が?」
コクンと真っ赤な顔で神田さんは頷き、私の手を離した。
「やだなあ…冗談ばっかり…」
…ってこの空気の流れがこれは冗談ではないということを物語っている。
「今まで言われたことねェのか?」
「あ!」
ティキに言われたことを思い出し大きな声をあげると神田さんの目が一瞬だけ丸くなり、そして目を細めて睨むように私を見た。
その目は“ほら…あるじゃねえか”と語っていた。
「はあ」
ため息をついた神田さんは私に背を向けキッチンの方へ行ってしまった。
「早く洗って来いよ。朝飯用意してやるから」
「は、はい!」
どうして昨日会ったばかりの私に親切にしてくれるのかわからないけど、神田さんと出会えて良かった…。
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アイツがああなったのは俺のせいだ。
見てくれだって悪くねェのに自分をブスだと思ってやがる。
買ってきたパンを二人掛けのテーブルの上に並べながら名無しさんのことを思う。
俺が卑怯で臆病者だったから。
俺がエクソシストだと聞いた名無しさんはあっけらかんとしてたな。
こんなことならあの時、逃げずに正体をバラしてやればよかった。
そしたら名無しさんがあそこまで捻れた考えを持つこともなかったんだ。
「はあ…」
どうすれば自分は汚くないとかアホな考えをしなくなるんだ?
もっと自信を付けてやればいいのか?
しかしどうやって?
コポコポコポ…とコーヒーをカップに注いでいる時、名無しさんが洗面所から顔を出した。
「あのぅ」
恐る恐る少しだけ開けて話しかけてくる名無しさんに目をやると、その僅かな隙間だけでも名無しさんがバスタオル一枚だと言うのがわかる。
落ち着け俺!
落ち着け!
早鐘のように鳴る心臓は無視し、意識していることを悟られないように返事をする。
「なんだ?」
「あのシャンプーを借りたいんですけど…石鹸しかなくて…」
俺は頭からつま先まで石鹸で済ますが、女はそういうわけにはいかないのだろう。…というか…
「お前、熱があるのに風呂に入る気か!?」
てっきり顔だけを洗うのだと思っていた。
「だって、昨日入ってないし、汗でベタベタするし…。ごめんなさい。シャワー借りるって言ったつもりでいました。遅くなりましたが貸してください」
そんな子猫のような目で見ても…
ん〜。
「わかった。どっかにサンプルもらったやつがあったから出しといてやる。だから風呂の戸を閉めて待ってろ」
「はい」
名無しさんはそう返事すると戸を閉めた。
「はあ…」