キミのとなりで
□キミのとなりで4
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石鹸の泡を流したあと、タオルで手を拭きながら神田さんは続けて言った。
「アイツには好きな奴がいるだろう?」
「ええ!?」
それはコムイさんにとって地雷だったらしい。勢い良く立ち上がって固まった。
「なんだ。シスコンのくせして知らなかったのか?」
「相手は誰だあ!兄さん、何も聞いてないよお!」
嘘のように大量に涙を流し、コムイさんは飛んでリビングを出て行き転がるように階段を降りて行った。
すごく騒々しい人だなあ…と私の頭にはインプットされた。
「あの…今のって…」
「ああ‥電話でもしにいったんだろ?妹に」
コーヒーサイフォンの音がコポコポとし出した。
あ、すごくいい匂い。
神田さんがカウンターに置いた袋から香る甘い匂いと合わさるとお腹が背中とぺったんこだと言うことに気付く。
お腹空いたなあ。
「あの…泊めてくださってありがとうございました!」
私は神田さんに頭を下げた。
「しかもイロイロと看病してくださって…」
私がそう言い終わらないうちに神田さんは小首を傾げてスタスタと私の目の前にやってきて、20センチほど空けて立ち止まった。
ちっ…近いんですけど…どうしてこんな近くに?
私が様子見で窺うように見上げると、神田さんは右手で私の前髪の下に手を置き額に手を当て呟いた。
「熱は下がったのか?」
私の体がこのせいで急激に熱くなったのは言うまでもない。
それから何を思ったのか神田さんはその右手でスッと前髪を上げて私のデコを全開にし、左手で自分のデコを全開にして額同士をピタリとひっつけた。
う、うわあ。
私はキスと同じぐらいの至近距離に耐えられずギュッと目を瞑り額からの神田さんの熱を感じ取った。
さっきのコムイさんじゃないけど私が神田さんの婚約者だったらなあ。
昨日ティキに振られたばかりなのに、もうなぜか別の人にドキドキする。
昨日は熱のせいでじっくり見る暇は無かったけど神田さんがかっこいいからかな?
ゆっくり額が離れて行く時、少し寂しさを感じた。
「まだ少しあるな。今日1日休め」
額が離れていく距離に合わせ、私はまぶたを開けて行く。
「でも…この土日で住むとこを探さないと…」
月曜日からは仕事だし…
「まだ熱がある。無理はするな。俺はいつまでいたって構わねェから。部屋は体が治ってから探せ」
神田さんは優しく私の頭を撫でる。
昨日、洗ってないから臭わないか私はずっとドキドキしてた。
大丈夫ですか?髪の毛、ベタついてないですか?
なんて恥ずかしくて聞けない…。
とりあえず目やにが付いてたら嫌なので指で目をこすった。
恥ずかしくて顔を上げられず、神田さんの胸元ばかりを見ていたら、シャツのボタンの一つが取れかかっているのが目についた。
顔を洗ったら付けなおしてあげよう。
「コムイから俺のこと全部訊いたのか?」
「全部かどうかは知りませんが、神田さんのお家のことと職業は訊きました。」
「で、どうだった?」
私の頭の上から神田さんの手がなくなった。
「“どうだった”?と訊かれましても…」
「ちっ」
ええ!?舌打ち?今、舌打ちされましたよ!しかもだんだん眉間にシワが寄ってるし‥。
「エクソシストだのなんだの言われて、気持ち悪いとかうさん臭いとか頭がやばそうだから関わらねーでいようとか思わなかったのかって聞いてんだ」