キミのとなりで
□キミのとなりで4
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「こういうおいしいものを見ると、もう一度生きたかったって思うんだよなあ」
今も好きかどうかわからないが、砂糖がかかったドーナツとカスタードクリームの入ったオレンジのパイ、ゴボウサラダのパン。サンドイッチだってツナとトマトと…
「げっ!ユウ!いつから甘党に!?」
アイツが好きそうなものを乗せたら結構な数になったが、そのままレジに持って行く。
「なあなあ、そんな気になるならメアドぐらい聞けよ」
あー五月蝿い。
幽霊のくせに時代の流れに乗りすぎだろ。
会計も済み車に乗り込むと店の中で溜め込んでいたものを俺は一斉に吐き出した。
「テメエ、あれほど話かけんなっつーてんのに、このままあの世に行かすぞ?おら!」
後部座席に座るアルマは目を丸くしてヤバいと思ったが直ぐにふんぞり返って言った。
「ははん、六幻を持ってないユウなんて怖くないね」
「ほほう…術だけで苦しませてやろうか?」
「げっ!それは勘弁!どうせなら六幻でスパン!とあの世に送ってもらった方がっ!」
慌てふためくアルマを見て俺は「くっくっ」と喉を鳴らして笑った。
あー愉快愉快。
「言っとくがあの店員目当てじゃねェからな」
「じゃ…本当に甘党に?」
「ちげえよ」
「じゃ…なぜ30分もかけて遠くのパン屋に…しかも実家の近く…出きるなら寄り付きたくなかったんじゃなかったんじゃなかったっけ」
「五月蝿い」
「危険をおかしてまでなんのメリットが…」
後ろでアルマが独り言のようにブツブツ言っていたが俺は得意の無視攻撃で口を噤んだ。
“メリット”?
多分あるぜ?
俺は名無しさんが喜ぶならそれでいいし、今度こそ守れればいいと思ってる。
腹黒い考えでいくと、つきあえなくても友人ではなくても名無しさんの中で一番大きな存在になりたい。
口では守るとか彼女が幸せならとか綺麗事を言うかもしれねーが本気で言うなら、名無しさんに新しい男ができて彼女が嬉しそうにしても、俺は笑顔でそれを壊す。
絶対に誰にも渡さない。
たった一晩で俺の気持ちはここまで大きくなっていた。
アイツが、アイツを傷つけた男の名を呼び、泣きながら寝ていたのを思い出しては腸が煮えくり返る。
だが、今は俺が首を突っ込む所ではない。
アパートの駐車場に着きアルマの存在を無視して普通に車から降り普通に鍵をかけるがアルマはスゥーっと通り抜けて出てくる。
「チッ!車の中にも札貼ってやる」
「ん?ユウなんか言った?」
「………」
人のプライバシーにズカズカ入って来やがって。
アルマに限らず今までに出会ったアヤカシ達が脳裏に走馬灯のように浮かんでは消えていった。
ん?部屋の鍵が空いてる…。
しまった!コムイがいたんだ!すっかり忘れてた!
コムイがおかしなこと言ってなきゃいいんだが…。
しかし、神田の心配をよそにコムイは勝手にベラベラ喋っていたのである。
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神田さんの気配なんて全然しなかった。
しかもなぜか怒ってる?
シーンとなった中、神田さんが手を洗いながらコムイさんに言った。
「心配すんな。お前の妹と結婚するつもりなんてサラサラねェよ」