キミのとなりで

□キミのとなりで2
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つまり俺は約束をすっぽかした…。

名無しさんは知らないだろうが、俺は一度だけ名無しさんに会ってる。というか、見た。

場所は学校の敷地内の誰も来ない一番奥の薄汚い校舎裏。俺はいつもそこで昼飯を食っていた。

その日もいつものようにそこにいたら、お前が4、5人の女に囲まれやって来た。

もちろん俺はすかさず建物の凹みに隠れる。

直感でヤバいとこに遭遇したことはわかっていたから。

関わりたくないから、自分はそこにいなかったことにした。

そして10分もの間、ヒステリーに罵る声と泣きながら否定する声が響いた。

どうやら男を取ったとか取られたとかそんなレベルの争いらしい。

それから静かになり、そっと覗いてみると一方的にやられた女、つまりは名無しさんが横たわっていた。

助けるべきかを悩んでいる間に名無しさんがゆっくり起き上がったので俺はまた身を隠す。

終わったなら早くどっか行ってくれよ…

そう思う俺の気持ちとは裏腹に鼻血を垂らした名無しさんは建物に寄りかかるように座り込み、泣き出した。

それはもう、5時間目が始まっても泣き止まないので、今さら出るに出れなくなった俺も一緒に授業をサボることになった…。

“たま”=名無しさんと解った時、俺は彼女とのメールのやり取りをするのを止めた。

俺と関わるとロクなことはないから。

『どうして来なかったの?』

名無しさんに会う前にもうすぐ着くとメールをしたから言い訳もなにも出来ない。

『私の姿を見てがっかりして帰っちゃったのかな?』

そんなことは無い!
むしろ、見とれたぐらいだ。

臆病だった俺は彼女を傷つけてしまった。

きっと誤解した筈だ。

君の容姿が気に入らなかったとかそんなことじゃねェんだ。

それからだって俺の目はお前を追いかけてた。

教室の窓から向かい側の棟をずっと眺めてた。

君がクラスメートにいじめられてたことも知ってた。

知ってて助けなかった。

あの時の罪をずっと後悔してた。

俺は君に許しを乞わなければならない。

大人になった今なら…君を守れるぐらい強くなった今なら…君のすべてを受け止められると思う…。

逆に俺の方がお前に受け入れられるかがかなり不安だが…。

ふと今いるところからLDK全体を見渡す。

普通の人間からしたら怪しげな物に怪しげな本が両手で数える程度あちこちに転がっている。

これは片付ければなんとか…。

床に書いて練習した陣も消したし…。

しかし極めつけは各部屋、各場所の四隅に貼った札。

これは剥がすわけにはいかない。

聞かれたらなんて答えようか?

彼女が俺の素性を知って、もしそれが許されるならば君の隣にいたいと願ってもいいか?

今度は逃げることなんざしねェ。絶対に。

気持ちが悪いと罵られても、君に罪を償わなければならない。

そう誓うとドアをそっと開け名無しさんが眠ってる姿を確認してから中に入る。

名無しさんにここまで想われていて泣かしたティキって奴は憎たらしいが、こうして再会できたのはそいつのおかげだな。

サイドボードに盆を置き、名無しさんの頭を抱えアイスノンを敷いた。

「ん…」

起こしたか?

起きたならついでに薬を飲んでもらうか…。
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