キミのとなりで

□キミのとなりで11
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海が見える公園。

白い金網のフェンスにもたれ、携帯電話を片手に海を見つめる名無しさんの後ろ姿を俺は離れた所から見ていた。

そんなにその男が好きなのか?

そいつから連絡来るのを待ってるんだろう?

海と小さな店が建ち並ぶ間に低い段差の階段があり俺はそこに座ってた。

自分の膝の上で片肘をつき名無しさんと同じにため息を吐く。

もうすぐ日も暮れるな。

不動産屋を出たあと、落ち込む名無しさんの気晴らしにでもなればと思い、新しく埋め立てられ作られたここにドライブがてら連れてきたのだが、名無しさんのテンションは沈み行く太陽に比例するかのように落ちていった。

俺も自分から話す方ではないからここにきてから、お互い会話もない。

それよかアイツ遅いな。

“アイツ”とはアルマの事だ。

名無しさんの自虐的な性格が少しでもよくなればと思い、俺はアルマに頼み事をしていた。

頼んだのは名無しさんが不動産屋でデイシャと話している時。

そろそろ現れてもいい頃合いだがな。

そのために俺は今名無しさんと離れてるんだが。

「名無しさん!」

ジッと座ってるのも飽きてきて彼女の名前を呼び立ち上がる。

振り返った名無しさんは変わらず湿気た面をしていた。

「ソフトクリーム食うか?待ってろ。買ってきてやる」

「あ…」

俺は彼女の返事も聞かず階段を駆け上がった。

名無しさんが自分のことを卑下するのは昔からだが、少しは俺にも責任がある。

俺があの時、逃げないで会っていれば…。

ズボンの後ろポケットから財布を取り出しながらソフトクリーム屋へ向かうと、そこには先客がいたため俺は列の後ろに並んだ。

そして何気に名無しさんがいる方を見れば、ここからなんの妨げもなく名無しさんの後ろ姿が見え、安堵感を得る自分がいた。

名無しさんは海側のフェンスから先程俺がいた場所に移動し腰を下ろそうとしている。

その時、一人の男が名無しさんに近付き声を掛けた。

「アルマの奴、やっと来たか」

俺はソフトクリーム屋の列から外れ、二人の様子を見守る。

ここから名無しさんの表情は窺えないが、男の人間に取り憑いたアルマにキョドっている感じだ。

アルマには何人もの人間に取り憑いてもらい、とにかく名無しさんを可愛いと褒めちぎれ!と言ってある。

一人目が去ったあと、ホッと溜め息をつく名無しさんが見えた。

名無しさんの顔は真っ赤だ。

俺以外の奴に言い寄られてんのは腹立つが、自分が仕組んだ事のため文句も言えねェ。

それからアルマは作戦通り、何人もの男に取り憑き名無しさんを口説いた…。

内心、本気で男(アルマ)に着いてったらどうしようかと不安だが、俺は大人しく見守った!

だが、髪を金色に染めた耳に輪っかが付いている若い男に取り憑いたアルマがシツコイ!

名無しさんの肩を組んだり、いかにも“いいじゃねェかよぉ”と言ってそうな唇の動き。

そしてそれを断る名無しさんの腕を掴み“いーから、いーから”と言っている。

おい!!アルマ!外見がチャラい奴だからと、そこまで演技しねェでいいんだぞ!
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