キミのとなりで
□キミのとなりで9
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いつの間に乗ってきたのか短い黒髪の男の子が私の隣に座っていた。
そのコに対して神田さんは大声をあげて怒鳴った。
私は男の人の怒鳴り声が苦手で、自分が怒られてるわけではないのに、つい息を止めてしまう。
幼少のころ父がアルコール依存症で、母や私に暴力を振るっていたのが原因だと思います。
「僕、アルマって言うんだ。キミがユウの初恋の##NAME2##名無しさんさんだね?はじめまして。よろしくね」
自己紹介してきたアルマってコは無邪気な笑顔を見せ、私に握手を求めてきた。
「アルマ!余計なこと喋らなくていいからとっとと降りろ!」
神田さんがそう怒鳴ってもアルマってコは私を笑顔で見つめている。
だから私もそのコの握手に応じようと右手を出した。
このコ、神田さんの何なんだろう?
親戚?
それとも近所のコ?
「は…はじめまして。よろしく…」
え!?
このコの手に触れた瞬間、全身に鳥肌がたった。
それぐらいこのコの手は冷たかった。
だけど途中で手を引っ込めるような傷つけることはできず、私はそのコと握手を交わした。
「うん、よろしく。僕のことはアルマでいいから」
「う…うん、じゃあアルマくん」
屈託のないアルマくんの笑顔に対して私の笑顔は引きつっていることだろう。
手に汗ができるほど暑いのに、どうして氷のように冷たいの?
「ほらっ!アルマ、名無しさんがびびってんぞ!降りろ」
「イヤだよ。僕も名無しさんと友達になりたい。アパートには結界が張られてて入れないから、ずっと外で待ってたんだよ」
「あ…あの…私は別に大丈夫ですから…」
運転席の後ろに座る私は、前屈みになって神田さんにそう言った。
神田さん…石鹸のいい匂いがする…。
「ほらっ名無しさんもいいって言ってるし」
ニコニコ笑って行儀よく座るアルマくんを神田さんは流し目でギロリと睨んで言った。
「帰ったらぜってえ、車にも札を貼ってやる!」
「ええ!?ユウのドけち!」
「誰がけちだ!誰が!」
二人のやり取りを聞いているうちに“あれ?”と私の頭に疑問が生まれ、そして直ぐに答えが出る。
さっきアルマくんはアパートには結界が張ってあるから入れないと言った。それに神田さんも車に札がどうのこうのって…
「ええ!?アルマくんって幽霊なの!?」
目玉を大きくして驚くとアルマくんは可愛い笑顔で「うん、そうだよ」と言った。
「名無しさん?」
「は、はい!」
神田さんが体を捻って私に話しかけてきた。
「大丈夫か?ソイツはワケあって俺が式代わりに使ってるヤツで、悪いヤツではないんだが、お前が怖いなら…」
「大丈夫です!怖くないです!初めてお化けを見たので驚いただけです」
「そうか、じゃ…車、発進させるぞ?」
「は、はい!」
そして神田さんは車をゆっくりと発進させた。
「“お化け”だなんて心外だなあ」
「え?」
しばらく走ってクーラーとアルマくんとで体が冷え冷えになってきた頃、アルマくんが眉を八の字にしてポツリと言った。
「確かに“お化け”だけど…」
アルマくん…さっきの事を言ってる?
「しかもそんな隅に縮こまらなくてもいいじゃん」