キミのとなりで

□キミのとなりで8
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疲れた…。

今日のアヤカシはなかなか手ごわかった。

帰り道には低俗な悪魔に出会うし散々だ。

鍵を掛け、靴を脱ぎ、音を立てずに階段を上がる。

上がりきると正面にトイレがあり向かって右側が7.5畳の寝室がある。

俺はそこに名無しさんが寝ていると思っていたから、そのドアを見たあと左側にあるリビングの方へ静かに移動をした。

喉が渇いていたので水を飲もうと思い、冷蔵庫を開けミネラルウォーターを取り出す。

ウィーン…という冷蔵庫の機械音を聞きながら流しのとこでミネラルウォーターで喉を潤し、視界に入ったカウンターの上のおにぎりを見た。

ん?なんだ?

ミネラルウォーターに蓋をしながらおにぎりの側にあるメモを読む。

“ラップを使って握ったので汚くありません”

と書いてある。

アイツ。まだこんなこと言ってるのか?

俺は何も具が入っていないただの塩むすびを遠慮なく口に入れながらそんなことを思った。

「うん…うまい…」

お前は汚くねェよって何回言えば、心の傷を癒せるのだろうか。

そう考えた時、こっちに背を向けてあるソファーから“ゴトッ”と音がして情けないことに俺はビビった。

まさか名無しさんがそこにいるなんて知らなかったからだ。

ソファーに視線を移すと肘掛けのところから人間の足がはみ出している。

「誰だ?」

俺は部屋の電気を点けソファーの主に近付いた。

「名無しさん!?」

近付いてみると名無しさんがタンクトップ姿で寝息を立てていた。

さっき音がしたのは彼女が投げ出した左手がコーヒーテーブルに当たったためだろう。

その証拠に左手がコーヒーテーブルの上に乗っている。

「名無しさん…お前…なんで?」

なぜベッドで寝てねえんだよ。

しかもそんな…。

俺を試してるのか?

深くできた彼女の胸の谷間から俺は大きく顔を逸らす。

夏だから仕方ねえよな?

タンクトップぐらい着るよな?

と、彼女が俺を誘うつもりでこんな薄着の格好をしているわけではないと自分に言い聞かせる。

だが、好きな女の無防備な姿ってのは…

男として少し困る。

「こんなとこで寝るなよ…」

はみ出て見える彼女の臍を隠してあげようとタンクトップの裾を引っ張ったら、胸が…柔らかそうな乳房がさっきよりも面積広く見えて、俺はガキのように頬を染め、自分に馬鹿だと頭の中で怒鳴った。

背負って連れてきた時も思ったが、コイツ、結構胸が…俺の好み…。って何言ってんだ!俺!

早いとこ寝室まで運んでやろ…。

そう思い名無しさんを起こさないようにそっと腕に抱えた。

持ち上げる時に一瞬、名無しさんが少し目を開けたが、その目は直ぐに閉じた。

それから寝室に向かおうと体をひねらせた時、テレビの前に無造作に転がっているAVのパッケージが目に入り、俺の心臓はバクバクと大きく鳴った。

なっ…なぜ、それがここに出ている!?

テレビ台の一番奥の奥に隠しておいたのになぜだ!?

俺は名無しさんに疑いを持ち、DVDのケースと眠っている彼女の顔を交互に何度も見る。

まさか、お前、見たのか?



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真実はこうだ。

21時頃様子を見にきたコムイが、「名無しさんちゃーん、退屈でしょう?何かDVDでも見たら?」とコムイがテレビの下を漁り、「あった。あった」とそのAVを取り出したのである。
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