キミのとなりで

□キミのとなりで4
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冷蔵庫が空っぽだった。

というかまともな物が入っていなかったため朝飯を買いに行くことにした。

厳密に言うと俺は名無しさんの好きなものを食べさせてあげたいと思った。

6年前と今では嗜好は変わってしまったかも知れないが俺はコイツが好きだった物を知ってる。

名無しさんが寝ている間に胸元の梵字を隠すように袖のある服を着て、俺は静かに外に出た。

別に見られても構わねえが何かと面倒くさい。

そういや昨日、名無しさんのやつ、これ見たか?

何も言ってなかったな。

「やあ!ユウ!オハヨウ!」

アパートを離れてから直ぐに目の前にフワフワと浮く者が現れた。

「………」

俺はそいつと3秒ほど目を合わせてから無視をして先へ急ぐことにした。

「ああ!こらっ!ユウ!」

「チッ!なんの用だアルマ。俺は急いでんだ」

アルマという霊は俺の前に回り込んできて足を地面につけた。

「つれないなあ。久しぶりじゃん!ユウの部屋、結界のせいで中に入れないからおとなしく外で待ってたのに」

俺はアルマと正面衝突する勢いで歩く足を止めない。

「うわあ!あぶないな」

別に実体はねェんだから危なくねェだろ。

「…ってか話しかけんな。人にはテメエは見えねーんだ」

「ははっ!ユウが変人に見られるだけだね」

車のキーレスの音をさせると「ねっ!朝からどこ行くの?」と勝手にすり抜けて後部座席にアルマは座った。

「はあ…」

いつか必ず成仏させてやる。

仕方なしに車に乗り込みエンジンをかけた。

「なあなあ、久しぶりなのになんで嬉しくねェの?」

幽霊のアルマはよく喋る。俺がこいつを成仏させないのは理由があるのだが…

「今度は会えたのか?」

バックミラーでチラッとアルマを見ると“ううん”と悲しげに首を振った。

そう、こいつにはこの世にやり残したことがあるらしいのだが、それは俺にも教えてはくれない。

アルマとは20年来の付き合いになる。

人間の友達はいなかったから根暗な話、コイツが親友だったりする…。

「ユウはいい男になったね」

「テメエはこれっぽっちも変わらねーな」

…ってかわざとらしい!いなかった間だってたったの三週間ぐれえなのに。

「ねえ?結構走ったけどどこに行くの?あ?え?パン屋さん?」

「テメエは付いてくんな。乗ってろ」

かわいらしい外構の駐車場に車を停めると俺は他に目をくれず素早く店内に入った。

「いらっしゃいませ〜」

ドアベルが鳴るとテキパキ動く店員がこっちを見ながら元気に挨拶をする。

「うわっ!まさか!あの子目当てとか!?」

「なっ!」

頭上からアルマの声がして思わず怒鳴りたかったが、こめかみに青筋を作るもここはググッと我慢だ。

やっぱり付いて来やがった!

「へえ〜。あの名無しさんって子のこと諦めたの?」

ぺちゃくちゃ喋る奴のことはほっといて名無しさんが好きだったパンをいくつかトレイに乗せる。

「…って当たり前か。ユウからしたらもう昔のことだもんね。」

アルマも元は人だったくせに、今になれば人だった時と時間の経ち方が違うらしい。

「あ〜あのパンおいしそ!ほらっサボテンパイだってさ。」

名無しさんは6年前このパン屋が好きだと言っていた。
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