キミのとなりで
□キミのとなりで2
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やっと寝たか…。
俺は名無しさんの手をそっと離し、真っ直ぐに置いた。
驚いた。
まさか、昔…高校時代の好きだった奴だったなんて…。
なんで始めに気が付かなかったんだよ!
って…気付くわけねェよ‥
卒業してもう6年にもなる。
6年も経てば女なんか原型留めてないぐらいに変わる。
…は大袈裟だな、少し面影はある‥。
彼女はとても素直で優しい子だった。
今でもそうなのか?
そうだ薬…。
今のうちに薬でも持って来るか。
彼女の目頭に残っていた涙を指で拭ってから俺は部屋を一旦出た。
室内に干していた乾いたシャツを引きちぎるかのように取り、リビングの引き出しから風邪薬を取り出しながらそのシャツを着た。
それから対面キッチンの向こうへ移動する。
名無しさんは俺のことなんか知らないんだろうな。
あの学校、マンモス校だから学部が違えば棟も違う。
俺は普通科。
名無しさんは商業科だ。
そして冷蔵庫を開けた。
俺は物心ついた時からアヤカシが見え、随分嫌な思いをした。
だから学生時代は人と関わらぬようひたすら地味に過ごした。
“あの人、顔はいいと思うんだけどすっごく変なんだって”
“気味悪い”
「くそっ!」
地味でダサくて、根暗…。
昔のことを思い出してイラッとした俺は500mlのペットボトルの水を取り出してから乱暴に冷蔵庫のドアを閉めた。
大人になった今では誰に何と思われ何と言われようと構わないぐらい強くなれたが、昔は人と距離を置きながらも遠くから人をよく見ていた。
心のどこかでは友達が欲しいと思っていたのだろう。
そんな若気の至りで携帯のコミュニティーサイトに登録してみた。
人と触れ合うことは出来ないが、電波を通してなら友達はできるかもしれないと思ったからだ。
これで寂しさを紛らわそうという浅はかな考えだった。
で、たまたま入ったグループに“たま”というすごく気の合う女の子がいて、数ヶ月後には顔も知らないその子のことを好きになっていた。
当時、彼女だけが俺の生活の潤いだった。
そのうち直でやり取りをするようになって…近くに住んでることがわかって…会おうって…。
薬と未開封のペットボトルの水を手に持ち、俺は少し悩んだ。
あんなフラフラなのにペットボトルの蓋は開けれるのか?…と。
子供の時、俺も同じことがあったが、開けれなくて難儀したことがある。
あの時、子供ながらに必死で開けたな‥。
だが蓋を緩めて置いとくと俺が口付けたとか、毒が入ってるとか名無しさんに思われねェか?
「ん…」
悩んだ末、水を急須に移すことにした。
湯のみと水を入れた急須と薬を盆に乗せた。
あと、頭冷やすやつも持ってってやるか。
そう思い冷凍庫を開けアイスノンを取り出した。
職業柄、大抵の医薬品は揃っている。
そしてアイスノンにタオルを巻いて盆を持ち再び寝室へ…。
『改札口で待ってるね。目印にピンクの花のコサージュをつけたバックを持ってるから』
彼女からのメールを頼りに冷やかすアヤカシ共をあしらいながら向かった。
逸る気持ちを抑えて俺は待ち合わせ場所に行ったんだ。
君の側まで行った…。
なのに君の姿を見て俺は君と反対側の柱に身を隠した。
それはなぜかというと君が同じ学校の奴だったから。