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□王子と巫女
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左右確認、敵なし
前方、人影なし
後方、よし


「出発ー」
「どこにだよ」


……失敗




部屋に戻された桜姫。現在6歳。玖楼国王女
その彼女を威圧的に見下ろすのは兄君であり、この国の王子、桃矢
隣には彼の親友で神官見習いの雪兎


「ったく、ちょっと目を離したすきに脱走するなんてな。怪獣は一か所でじっとしていられないのか」
「さくら怪獣じゃないもーん!」
「いーや、怪獣だな。本物の姫君なら今ごろ勉強してる筈だもんな」
「むきー!」


また始まった
と雪兎が溜息をつく
この兄妹のケンカはいつものことだが毎回止めるのに苦労する
これが止められるのは彼らの両親と…


「そこまでにしたら?」
「「秋桜」」


彼女だけ
足音も立てずに歩み寄る秋桜
それにあわせて桃矢の顔も険しくなって来る


「秋桜、今日はもうお勉強終わったの?」
「姫はまだ終わっていないようだけど」


う、とバツの悪そうな顔になる桜
秋桜の事だ。既に桜の脱走は察知しているだろう
目深にかぶったフードの端からわずかに見える薄紅色が覗いた






「桜姫、頑張ってたね」
「まだまだだけどな」
「でも」


ふと雪兎が振り返る
その先には黒い外套を羽織った小さな少女
随分身長差のある二人を見上げていた


「秋桜が来てからは桜姫、以前よりも楽しそう」


年が近いせいなのか、共に居る時間が長い二人
というかはしゃぐ桜を見守る秋桜、というのが正しいか


「あ、ごめん。僕そろそろ行かなきゃ」
「ああ、母さんの所か。頑張れよ」
「うん」


神官候補の雪兎はよく撫子の元で修行している
残ったのは秋桜と桃矢
チラと桃矢が彼女を盗み見るが残念ながらフードで彼女の顔は見えなかった


「…なぁ」
「なに」
「なんでいつもそれ被ってるんだ。城の中なのに」
「桃矢に話す必要はない」


むっ

思いっきり睨む桃矢
流石に視線には気付いているだろうが全く動じた様子はない
それがますます面白くない

秋桜は桜の側に居ながら全く表情がない
慌てず、動せず、笑わず、怒らず
ただ静かにそこに佇んでいる


「…剣の練習に行く」


彼女は黙ってついて来た
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