素敵頂夢

□あずさんより(タイトル未定)
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「本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ!ファイさんも、小狼くんもいるから。秋桜はゆっくり休んでて!ねっ?」

「じゃあ、よろしくね。ファイと小狼も気をつけてね」

「任せてー」
「わかりました」


一面赤の景色にパタパタとかけていく3つのでこぼこな影を見送りながら、改めて感激する。



今回着いたのは、季節で言うと秋の世界だった。
綺麗に紅葉していて、景色は全て赤。けれどその中に銀杏などの鮮やかな黄色もあって、見事な景色だった。


いつも黒鋼と秋桜に任せてばかりだから、と言って買い物に出かけた3人に、思わず笑みがこぼれる。


リビングに戻ると、どっかりとソファに座りながら黒鋼がマガニャンを読んでいた。
(マガニャンって世界共通なのかしら……)


「黒鋼、お茶飲む?」

「ん」


集中してるのか、短い返事にまた笑って、今朝手に入れたほうじ茶を入れる。

こおばしい匂いが広がって、少し冷えた空気も温度が少し上がる。



「はい」

大きめの湯呑みを渡して、自分も隣に腰掛ける。

黒鋼はずずっと音を立てて飲むと、小さく息を吐いた。



決して口には出さないけれど、黒鋼がほうじ茶を飲んで美味しいと思ってることぐらい、簡単にわかってしまう。
もう彼とは決して短い付き合いとは言い難い。


(何かしらこの感じ。この景色のせいなのかな。)

ソファの正面からも、鮮やかな赤が見渡せる。



その景色を見ながら、唐突に、何故か理由もなく寂しくなった。




「ねぇ、寄ってもいい?」

「あ?」


急な秋桜の問いに一瞬怪訝な顔をした黒鋼だったが、黙って片腕を上げた。

そのすきに、秋桜はいそいそと黒鋼の半身にぴたりと寄り添う。

秋桜が寄り添ったところで、黒鋼は上げていた腕を下ろした。
下ろした腕は必然的に秋桜の肩に置く形になるので、まるで抱き寄せているかのような図である。



「なんかこれ、恋人みたいね」

「離れろ」

「ごめんなさい」


冗談で言った一言に、真顔で耳を赤くしながら、反論する黒鋼にけらけらと笑う。
全くからかいがいのあるやつである。



「でも、寂しいよ」

「あ?」

「黒鋼がいなくなったら、すごく寂しい」

「………」

「それぐらい、あなたはもう私にとって大切な存在よ」


何だか、愛の告白みたいな台詞をそれこそ唐突に言ってしまって、照れ臭い。

でも、自然と出てくる感情でもあった。どうしてか、伝えたいと思った。




「脈絡のねぇ話だな」

ってちょっと笑った黒鋼に私も、苦笑いする。



すると、ひょいと身体を持ち上げられて正面から抱き込まれる。





「別に離れていきゃあしねぇよ。そんなやわじゃねぇ」

「…うん」


軽く背中を叩く大きい手に促されるように、黒鋼の首にぐりぐりと額をすりつける。


彼のことを自分が分かるように、彼も自分のことがわかっている。
こうして強引に甘やかせるようにしないと、こちらが折れないことも。



眠い、と呟くと、赤子かてめぇはってまたちょっと笑った声が喉から直接頭に響く。


甘やかされてるなあ、と思いながら目をつむれば、わかってるかのように髪を撫でる感触。



眠気が漂う中、冷たい風に混じって、ふわりとほうじ茶の香りがした。
 

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