語られなかった世界

□そして少年はいつの日か
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ハラハラと薄紅色の花弁が散っていく。
地面に落ちるものもあれば、水面に浮かび流れゆくものもある。
そんな中、秋桜と黒鋼はじっと目を瞑ったまま佇んでいた。

ひゅんっ

手に持っていた小石を同時に投げる。
川の中央…小狼がいる場所へと。
ひょいひょいと軽やかに避ける小狼だが、二人の猛攻は止まらない。
秋桜達も移動しつつ小石を投げ始めた。

たんたんたんっ

石づたいに小石を避け、なるべく目に頼らないよう意識しつつ気配を探る。
2…いや、3個来る。

(ふぅん…)

小狼と共に闘う機会があまりなかった秋桜は驚いた。
正直ここまでやるとは思っていなかったからだ。
彼の右目が見えていないことは知っている。だからこそ時に目以上に気配に敏感になることも。
すっと手を出す。
ほんの瞬間のタイミングで、小石を二つ投げた。


「あ、落ちた」
「やっぱまだまだだな」


池に勢いよく落ちる小狼。
駆け寄る秋桜と呆れる黒鋼。
持っていたタオルを差し出して軽く頭を拭いてやる。


「大丈夫?」
「はい」


水から引っ張り上げて風を起こし、少しでも水滴が飛ぶように乾かした。


「まだまだ修行が必要だな」
「もう一度お願いします」
「…小娘、任せた」
「了解」


暫し目くばせする二人だったが踵を返す黒鋼。
どうしたんだろうと言う目で見る小狼に「ちょっと上達したってことだよ」と言うと少し嬉しそうな表情。
だが、


「あ、そだ黒鋼」
「黒鋼さん」
「何だ?」
「「帰りに砂糖買ってきてくれってファイ(さん)が」」
「また使いっぱかよ!!!」


と言いつつもちゃんと買ってきてくれるあたり黒鋼らしいというか。
行ってらっしゃーいと手を振る秋桜にでかい石が飛んで来るのだった(避けたけど)
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