Voyage au pays du sud

□変貌
1ページ/4ページ


「秋桜」


己の名を呼ぶ声
知っているはず
なのにどうしても思い出せない
誰か、大切な人だったはずなのに


「誰・・・」


胸が苦しくて目の奥が熱くなる
会いたかったはずの人
それなのにどうしても思い出せない


「秋桜」


もう一度名前を呼ばれると頭の中がいっきにクリアになった
目の前の世界が開けたようだった

ああ、と笑う


「そっか。貴方は―――」


ようやく彼女の顔が見えた


「ずっと私を呼んでいたのは貴女だったのね」


会いたかった人
もう触れ合う事すらできないと思っていた
だって彼女は自分の中に取り込んでしまったのだから


「会いたかった。星火」


自分の写身
飛王に利用され、殺されてしまったけれど夢の中でその写された力を秋桜に還し消えてしまった人
だけどそのおかげで秋桜は今生きていられる


「貴方に伝えなくては」
「何を?」


自分をまっすぐと見てくる星火の目
元々感情の薄い存在ではあったが今彼女が抱いている感情がまったく読み取れない
なぜか不安になってきて秋桜は己の手を握り締めた


「私を―――」


瞬きしたら元の世界に戻っていた
当然目の前には血だらけの小狼。慌てて治療を再開した


「秋桜ちゃん!大丈夫?」
「ファイ・・・大丈夫って何が?」
「さっきいきなりぐったりしてたから。怪我でもしたの?」


心配そうに様子をうかがってくる彼に大丈夫、と笑いかける
星火のことも気になるが今は自分に出来る事をする


「小狼・・・」


どうか早く目覚めて
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ