堀鐔青春白書

□乙女の決戦日
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真冬も盛りのこの頃、男女、年齢問わず人々が夢中になるもの。それは…――



「ねぇねぇ、もうチョコ買った?」
「まだー。今年は手作りしようかなって思ってるの」
「え?じゃあ一緒に作ろうよー」


厳しい寒さが続く中短いスカートを翻して歩く女子生徒達
その会話の端々からピンクのオーラが溢れて、こちらにまでハートが転がり飛んでくる


「可愛いねー」
「そうねー」


浮き立つ女子生徒の会話が耳に入って来て、秋桜と二人彼女の研究室でお茶をしていたファイはへにゃりと笑った
もうすぐ乙女達の大事な決戦日

St.バレンタインデー

教室ではお菓子作りやラッピングの本を読みふける生徒の姿がちらほら見られるようになった


「秋桜ちゃんはくれないのー?」
「教師間のチョコの受け渡しは何年か前に撤廃されたって聞いたけど?」
「んじゃ個人的に」


もう、と苦笑しつつ頭の中で彼をチョコ配布リストの中に加えた。ついでにユゥイと黒鋼も
バレンタインと言えば、毎年さくらと桃矢、その父藤隆。それと秋桜や桃矢の親友雪兎にチョコをあげていたくらいのものだったし
今年は絶対侑子さんには必要だし
そうとなるとあの白黒モコナにも用意しとかねば

まるで時期外れのお歳暮のようだけど、日ごろの感謝の気持ちをチョコで表すのも悪くはない

(それに今年は…)

渡したい相手がもう二人……




そして来たる2月14日

2月に入った瞬間から散々通勤途中でバレンタインの雰囲気を味あわされてきた分新鮮さの欠片もないけれど、学校に着けばやはり男子も女子もどことなく落ちつきなくそわそわしていた

(これで6個目か…)

職員室に着くまでにもらったチョコレートの数
すでに片手では持ち切れなくなっていた
本命、義理どころか友チョコ逆チョコ御褒美チョコなんてのまである時代
机の上にもどっさりと可愛らしい包装が積まれていた

それでもまだ自分はマシな方だろう
ファイやユゥイ、黒鋼の机には乗り切らなかったのか椅子や床にまで転がり落ちていた


「「おはようございまーす」」
「あ、おはようファイ、ユゥイ。すごい人気ね」
「あはははー」
「甘くせぇもんばっかり」
「あ、おはよう黒鋼」


登校早々文句を垂れる黒鋼だが彼だってファイ達に比べればまだマシだ
甘いものが得意でない事を気遣ってか甘さ控えてだったりお酒入りだったり…せんべいとか、お酒のみとか。こらこら未成年。どこで手に入れた


「ファイはチョコに限らず色んなお菓子が多いわね
 ユゥイは…お菓子よりもタオルとかブランデーとか…わ、調理器具なんてのもある」


流石に調理のプロに対して手作りで対抗する度胸はなかったか


「秋桜先生は…マグカップとかコーヒー豆とか、お茶系が多いですね」


ユゥイも秋桜の机の上に積まれたプレゼントの数を見ながら呟いた
彼が今手にしているのも紅茶の葉だし


「私の(研究室の)常連さんかしらね」


四月一日や百目鬼以外にも秋桜の研究室にお茶をしに来る生徒は多い


「で?」
「へ?」
「秋桜ちゃんからは〜??」


背後からのしかかるようにすり寄って来るファイの重みによろけつつも、


「分かってるわよ」


と自分のカバンを漁った


「料理上手の二人相手に手作りなんてちょっと恥ずかしいけど…」
「そんなことないよーぅ」
「有り難う、秋桜先生」


一応秋桜も料理は得意な部類に入るし、あんま大勢にあげるとこっちも財布事情も厳しい
と言う訳で手作り
それなりに趣向を凝らしたつもり


「で、黒鋼は」
「俺ぁいらね…」
「いいワイン見つけたのよね」


黙って受け取るとは正直な奴め


「あ、侑子さんのトコ行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」


彼女に渡すチョコレートを持って理事長室へと向かおうとする秋桜
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